新聞の凋落と再生の障壁 迷走を始める大手新聞社経営(前)
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通勤のラッシュアワーの光景はほんの10年で劇的に様変わりした。かつては、細長く折った新聞をめくるサラリーマンがひしめいたが、いまや一車両にせいぜい1人か2人。ほとんどの乗降客がスマートフォンの画面を凝視する。新聞の部数は急速に減少しており、このままでは事業の継続性に疑義が呈される。
公称と実売の乖離
今年2月、1冊の本が業界を騒然とさせた。題して『新聞社崩壊』(新潮新書)。執筆した畑尾一知氏は元朝日新聞社の販売局部長。主に東京本社販売局に勤務し、流通開発部長や販売管理部長を務めた「販売のプロ」である。発売と同時に版を重ね、2万部を突破。新聞各社の販売担当者とOBたちに読まれたとみられる。
同書によると、2005年に約5,000万人いた新聞読者は、15年に3,700万人に減少。さらに25年には約2,600万人になると推定している。およそ半分の読者が失われるというのだ。読者は50代以上が中心で、若い人はまったく読まない。しかも発行部数の3割程度もある「押し紙」の存在が、各販売店の経営を逼迫させている、という。
たしかに畑尾氏の勤務先だった朝日新聞社の場合、公称800万部あった発行部数が最近では600万部を割り込むほど減少している。ただし、これはあくまでも「公称」の数字であって、「押し紙」という読者のいない新聞部数を差し引くと、実売は400万部台といわれる。朝日の場合、ほんの十数年で実売部数が半減したと考えられる。
朝日は2000年代前半までは単体の売上高が4,000億円台をキープしていたが、リーマン・ショックのあった08年以降、まず広告収入がつるべ落としに落ち、ついで部数も急落していった。18年3月期の売上高は2,552億円と、往時の4割減に落ち込んでいる。それでも、10年3月期決算を除けば、かろうじて黒字を維持し続けている。そのからくりが、公称部数600万部と実売部数400万部の乖離(約200万部)にある。この乖離が、販売店に押し付けている「押し紙」なのだ。
増え続ける「押し紙」
「押し紙」によって朝日は黒字を維持する一方、困るのは、売れ残りの在庫(押し紙)を抱える販売店の方である。朝日で「押し紙」が累増したのは、箱島信一社長(福岡県出身、九大卒)時代の1998年ごろ、新聞部数が減少する局面を迎えてからのことだった。「部数が減り始めるなかで、各販売店が本社から仕入れる部数を固定化する動きが現れた。実売が減っても仕入れ部数をそれに応じて変更できないため、仕入れても余る紙が増え始めた。これが押し紙です。箱島さんの時代に、部数減少が激しかった夕刊で、まず始まった」と、ある販売店主はいう。
問題は、この「押し紙」が発行部数の3割程度にも達し、紙代や印刷費、運送費に莫大な無駄が生じているうえ、読者のいない新聞を引き取らされることによって、朝日の販売店が近年、軒並み赤字に陥っていることだ。これに対して、平均給与1,200万円という社員の賃金水準は大きく減らされておらず、約4,000人台という従業員数もそのままだ。売上が大きく減少しても、社員に痛みを強いる改革は先送りにし、販売店にツケを回したような恰好なのだ。「いまや新聞の販売網は危機的な状況にあります。多くの販売店主が『あと1、2年しかもたない』と言っています。ほとんどが赤字。辞めていく店主も多い。東京オリンピック終了後、一気に落ち込むでしょう」と、販売局OBは語る。
一方、ライバルの毎日新聞も惨状は同じだ。毎日は2011年、スポーツニッポン新聞社と共同持株会社を設立したものの、以来6年連続で売上高は減少し続けている。毎日単体に至っては売上高1,066億円で、そろそろ1,000億円の大台を割り込みそう。
公称300万部の発行部数だが、「ウチは朝日よりも押し紙が多いのは確実。関西では残紙率が5割を超える店があり、ほとんどやっていけない。販売店主が毎日本社を訴える裁判も起こされた」(毎日社会部OB)という。実売は150万部~180万部あたりだろう。依然として無借金の朝日と違って、毎日には長短期合わせて500億円強の負債がある。売上が減少し、期間損益もかろうじて黒字という低額なので、負債返済はかなりの重荷になっているはずだ。
(つづく)
【中村 博信】法人名
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