【BIS論壇№ 477】躍進の中国製造2025

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は4月24日の記事を紹介する。

 コロナ禍前の2019年9月、中国・安徽省合肥で開催の世界中小企業大会に参加した。この世界中小企業協会会長は元ドイツ大統領である。日本企業の参加も少なく、日本からぜひ顧問をお願いしたいとのことで、鳩山由紀夫元首相に顧問をお願いし、同首相に同行。会議に参加した。中国にはすでにシンガポール、ドイツ、フランスなどが工業団地を建設。未来の製造大国を目指す中国への産業技術の売り込みに注力していた。

 会議終了後、中国側が会議参加者をドイツ・フォルクスワーゲン社が協力しているEV(電気自動車)工場に案内。車体を軽くするために、プレスが容易なアルミを車体に活用。一発のプレスで車体が瞬時に製造されるさまを見、さらに製造に多くの製造ロボットを活用、工員がほとんどいない工場にも驚いた。約1時間半の工場見学を終えて外に出ると、先ほど見学した工場からEVの完成品が出てくるさまにさらに驚いた。

 その後、ノーベル賞級のベテランが統括しているという、AI(人工知能)を活用した同時通訳システム研究所も視察。説明者が中国語で説明すると同時に画面に英語と日本語での説明が表示され、日本や外国からの参加者が驚愕したことを思い出す。

イメージ    中国は10年前の2015年5月に意欲的な産業政策『中国製造2015』を開始。EVや宇宙・航空など10の先端技術の重点分野を決定。国を挙げた長期計画で産業技術や生産力を向上させた。

 10の重点生産分野とは(1)海洋エンジニアリング、(2)航空、宇宙設備、(3)半導体など次世代情報通信技術、(4)省エネルギー・新エネルギー自動車、(5)電力設備、(6)先端鉄道設備、(7)新素材、(8)バイオ医療・高性能医療機器、(9)工作機械・ロボット、(10)農業用機材である。24年の中国の造船受注量は世界受注量の7割、2位の韓国は中国の5分の1だ。中国はまた有人宇宙ステーションを単独で持つ唯一の国だ。EV製造でも24年、世界の5割を達成し、世界第一位の生産量を誇る。半導体でも25年3月の自給率は2割だが、それでも製造設備の65%、材料の85%は中国製で欧米を追い上げている。

 太陽光導入量は世界の6割で断とつだ。高速鉄道の営業路線は日本の新幹線の15倍で世界の7割を占める。中国の新素材産業は世界の30%を占める。AI(人工知能)の活用面でも「DEEP SEEK」など急速に発展しており、無視できない存在になりつつある。さらに中国はバイオテクノロジーの主要分野で米国と肩を並べつつある。バイオ製造技術、抗生物質・抗ウイルス薬、合成生物学の研究論文は世界1位に躍進している。

 トランプ政権は中国に145%の関税をかけ米中貿易戦争に発展しつつある。だが、中国はASEAN諸国やさらにユーラシア大陸を中心とする広域貿易圏構想「一帯一路」などを通じ、米国に対峙。米中高関税貿易戦争は中国が有利に展開しつつあるように見える。 


<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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