【経済事件簿】要注意事案~農業事業資金トラブル発生 実態なき架空売上が露呈

 農業ビジネスを名目に資金を集めていたプロジェクトが頓挫し、億単位の資金をめぐりトラブルが発生している。1人の経営者をめぐって複数の関係者が未収金被害を訴える事態が判明。深刻の度合いを高めている。

有望な農業事業が一転 億単位の架空取引に

 地場企業経営者鈴木氏(仮名)は(株)MWS(現・ANGEL JAPAN(株)、博多区比恵町、代表森永浩二氏)への怒りを露わにする。鈴木氏によると2019年春、自身が経営する会社から数千万円を(株)MWSに資金提供した。鈴木氏によれば当時のMWSの主力事業は農産物の流通・販売業で、唐津市や粕屋町での直売や卸売業を手がけていた。鈴木氏は森永氏と深い付き合いはなかったが、信頼を寄せる経営者の企業で勤務していたことで気を許したという。

 MWS代表森永氏からのビジネスモデルについての説明では、生産者から現金で仕入れてから販売回収するまでに1~1.5カ月程度かかり、その間の資金繰りが必要とのことだった。かねて農業ビジネスに関心があった鈴木氏は農産物が売れたときに配当を受け取る約束で2口(販売先)分を融資した。資金は2カ月に1回、多いときは1カ月に1回のペースで拠出された。配当は3〜5%程度だが回収期間が短いため悪い話ではなかった。最初は数千万円から始まった融資だったが、何度も繰り返すうちに合計で4億円を超える規模になっていた。返済原資の元本や配当はすぐに次の仕入れ資金のための融資に回されていた。

 この間、鈴木氏は個人でもMWSにたびたび資金を提供している。車両やレジなどビジネスに必要な設備資金名目だが、会社から拠出できる資金ではないと判断して個人の財布から拠出していた。何度か返済は為されたが個人分だけで数百万円が未回収となっている。

 会社名義で融資している「2口」は、販売先が異なるものとしてそれぞれが別のプロジェクトのようなかたちで進行していた。1口(1社)は比較的大きな事業者向けのもの。当初は代金回収の報告がなされており、鈴木氏が信用するに足るものだった。そこで得た収益と返済予定の元本を次の仕入用に再融資することが繰り返されていった。ただし、もう1口の販売先は鈴木氏も知らない会社だった。それでも、表面上うまく回っていたことで融資の回数・金額が増えていった。

 ところが、派遣先の農業系企業で技能実習生の給与が滞った。鈴木氏はここへ至って異変に気付き、取引先を調査した。鈴木氏の知らないもう一口の取り引きは実態のないものだった。そこで資金提供をやめたが、先述の通りこの時点で未回収の貸付金は4億円を超えていた。この金額には配当金も含まれているが、実害額にあたる元本だけでも億単位に上るのは間違いない。経緯を振り返ってみれば、最初の貸し付けが成功したかのように見せかけ、返済された一部の資金を基に、さらに大きな金額を要求し続けるというものだった。

 この取引について森永氏はデータ・マックスの取材に対し、鈴木氏個人からの借り入れがあるのは事実だが、鈴木氏が資金管理していた「MWS販売」に対してMWSは債権を有しており、相殺によりMWSの債務はなくなっていると主張する。また、売上げ自体が架空のものだったとし、この事実を鈴木氏も認識していたはずだと主張。鈴木氏に対する億単位の債務を否定している。

 一方の鈴木氏によれば、MWS販売はMWSの仕入代金を管理するために設立した企業で、「MWSの指定する支払先に直接支払っていた」と述べ、「すべての入出金を記録しており、こちらは多額の債権を有しているのは明白」と憤る。鈴木氏は刑事・民事での法的手続きの準備に入っている。

嘘に基づいた借入? 債権者が法的措置を検討

 23年5月、森永氏は、鈴木氏とトラブルが発生した後、共通の知人である実業家に対して資金の借入を依頼している。その実業家によると森永氏は「鈴木氏に資金を貸しており、その返済を待つ間のつなぎ資金が必要だ」と説明したとされる。これを受け実業家は、同年5月末に2,500万円を無担保で貸し付け、返済期限を半月後とした。しかし、期限までに返済は行われず、その後に約束された分割返済も履行されなかった。不審に思った実業家が鈴木氏に確認を取ったところ、鈴木氏は「話は逆で、実際には自分が森永氏に貸していた」と明確に否定している。

 この件に関して森永氏は、実業家に対し「鈴木氏に資金を貸しているとは話していない。売上代金の入金予定があるのでつなぎ資金として融資の依頼をした」と主張したうえで、「現在、弁護士を通じて分割支払いの話をしている」として返済の意思を示している。ただし、実業家は森永氏の言動に不信感を抱き、こちらも法的手続きに向けた準備を進めている。

健康器具販売、その目的は

 MWSは、農業事業とは別に大手商社が出資するベンチャー企業の正規代理店として健康器具の販売事業を行っている。取り扱っているのは、超低周波電場を用いた健康管理機器で、市場投入以来、宣伝なしに短期間で10万台を売り上げたとされる。当該ベンチャー企業の器具代金は前払いが原則のため現状支払い面でのトラブルは聞かれない。この大手商社が出資するベンチャーとの取引は、MWS(ANGEL JAPAN)の信用を得ることに一役買っていたと見られる。

農業法人の代表就任 旧経営陣を加害者に仕立てる

 こうしたなかで新たな動きが判明した。農業法人「(株)めぐみ」(佐賀県玄海町)は、長年にわたり家族経営によって運営され、地域に根差したイチゴ生産を行ってきた。ところが代表を務めていた人物が22年12月に急逝し、経営の中心を失ったことで、遺族は大きな混乱に陥った。

 その混乱のなか社長に就任したのが、MWS代表・森永浩二氏である。遺族によると森永氏は事業拡大を企図した長男と親しくなり、イチゴの自動販売機を設置する計画などがあったとされる。森永氏は対外的に「遺族から社長就任を依頼された」と説明しているが、遺族には「責任をもって引き継ぐ」意思を示したという。22年12月8日に(株)めぐみの代表取締役に就任。親族によると株式の90%を無償で譲渡したという。

 しかし、森永氏の就任後、経営は遺族にとって不透明なものとなっていく。唐津市の直売所にMWSが出店した際、めぐみを通じて販売するも代金は遺族に支払われなかった。また、農協(JA)から購入した資材等の代金約700万円の支払いが滞っていることが発覚。結局その未払い分を遺族側が立て替えることになった。さらに森永氏は、遺族に対してこう説明したという――「経理上、数百万円が元社長の使途不明金として処理されている。このままでは横領となる。大方消し込んだが帳尻を合わせるためには100万円が必要だ」と。家族は、亡くなった前社長の名誉を守るため、また「今後の会社運営のため」と信じて、自費で現金100万円を森永氏に手渡した。しかし、その100万円が実際にどのように処理されたのかは現在まで一切説明されておらず、帳簿がどのように整理されたかも確認できていない。遺族はほかにもめぐみの借入金700万円も代位弁済している。

 そして23年夏に森永氏は遺族に対して、「経営がひっ迫しているので、3,000万円を数日内に用意してほしい」と、現実的でない資金要求まで突き付けてきたとされる。これを機に、遺族は森永氏と完全に決別し、独自に農業経営を再開した。ところがそれに対して森永氏は、遺族を「無断出荷」「売上の横領」などの名目で刑事告訴するに至ったというのだ。遺族がすでに経営から手を引いていたならば、報復とも受け取れる行為だ。ただし、この告訴は警察に受理されていない。

 一方の遺族は特別背任、詐欺などを視野に警察に相談したが、警察が動ける材料はなかった。それでも「森永氏の行為を警察に印象付けておきたかった」としている。こうしたなかで、今年2月頃、森永氏が遺族に対してビニールハウス3棟(1~3棟)の使用を停止するよう申し立てる通知を送付していたことが判明した。ところが、これらのハウスは土地・建物ともに親族が所有する。めぐみが所有権をもつのは、4棟目の建物(ハウス)のみだ。遺族側は「明らかに根拠のない不当な圧力」としている。

 注目されるのは、なぜ森永氏が唯一、会社名義である4棟目のハウスについては停止を申し立てなかったのかという点だ。実はこの4棟目には、森永氏の債権者でもある鈴木氏が経営する派遣会社が、人材を派遣している。遺族は、「あえて鈴木氏が関与している4棟目には手を付けず、関係の薄い親族所有の1~3棟に照準を絞ったのではないか」と見立てている。

 こうした流れについて森永氏はデータ・マックスに対し、「前代表の生前、MWSが約4,000万円をめぐみに対して立替えている。すべての出発点はそこから」と主張する。ビニールハウス使用停止要求についても土地の所有権を争っているわけでなく、自身が事業承継する際にビニールハウスをめぐみで使用できるということを遺族から伝えられたことが根拠であるとも主張。株式も無償でなく有償で買い取ったとも主張している。

 これに対して遺族は、「23年10月にMWSがめぐみに立て替えたとする約3,000万円の明細書が届いたが、明細に記載された、技能実習生を呼ぶための経費やMWSからめぐみへの貸付金などまったく根拠のないもの」と一蹴したうえで、「仮に債務が実在したとしてもめぐみへの立替金であれば新社長・森永氏が責任をもたねばならない筈」としている。遺族は「森永氏は社判を所有しており後からいかなる書面をつくることが可能」と憤慨。森永氏に対して、JAへの資材代700万円、借入金700万円の計1,400万円の返金を求める文書で返答している。

 ちなみに森永氏が遺族に送付した文書で森永氏は、「ビニールハウスの所有者がめぐみである」と主張して使用停止を求めており、データ・マックスへの説明とは異なる行為を行っていた。

 かつて遺族の手で育て上げられた「めぐみ」は、今やまったく違う姿に変容してしまった。

社名変更と 本社移転の目的は

 MWSについてはほかにも話が寄せられており、たとえば、MWSの過去の顧問税理士が顧問料が支払われていなかったと主張する一方で、森永氏は「支払った」と食い違う回答をするなど、トラブルの話ばかりだ。

 森永氏を知る関係者はこうしたトラブルについて「氷山の一角にすぎない」と見ており、今後似たようなトラブルがさらに顕在化していく可能性を示唆している。

 こうしたなか、MWSは24年7月に「ANGEL JAPAN(株)」へと商号変更を行い、同年11月に資本金が1,300万円から2,150万円に増資されている。同年12月には本社も移転した。森永氏は商号変更の目的について、「MWSの名称を変えたかった」と説明している。さらに、移転の理由については、本社事務所の不動産を所有しているオーナーから競売リスクの可能性を示唆されたことが理由だと説明した。そして、増資資金については、資金繰りのために出資者から調達したものであり、出資者の意向により融資ではなく出資というかたちになったと述べている。

 森永氏と債権者らの主張はことごとく対立しているが、複数の債権者が法的手続きの準備に入っており、事態は急展開を見せている。

【鹿島譲二】

関連キーワード

関連記事