新聞の凋落と再生の障壁 迷走を始める大手新聞社経営(後)
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門外漢の新規事業
こうした紙勢の衰勢はもはや避けられないと見て、新聞社の間で、まったく門外漢の新天地に活路を見出そうとする動きも広がっている。日本経済新聞社が15年に1,600億円で英フィナンシャル・タイムズを買収したことをきっかけに、朝日も毎日も慌ててM&Aに触手を伸ばし始めたのである。朝日の渡辺雅隆社長は、腹心の高田覚取締役の進言を受け入れて、社内に創設したベンチャー支援部門「メディアラボ」の陣容を拡大。9億6,000万円でITベンチャーのサムライト社を買収したのを皮切りに、この3年間に総額50億円近くをベンチャー投資やベンチャーキャピタルへの出資につぎ込んだ。毎日の朝比奈豊社長も「新規事業開発によって高収益体質にする」とぶち上げ、17年に電子書籍流通のメディアドゥ、データセンター事業のブロードバンドタワーという上場ベンチャー2社と組んで共同出資会社「毎日みらい創造ラボ」を創設。朝日と同様、産声を挙げたばかりのスタートアップ企業へのベンチャー投資事業を本格化した。
だが、朝日は第1号投資案件のサムライト社でいきなり8億円強もの減損処理に追い込まれた。投資後わずか1年弱でつまずき、大損を被ったのだ。「あまりにもマヌケな出資だった。大阪社会部出身の渡辺社長も経済部出身の高田取締役も、現役記者時代にほとんどリスクをとったことのない人。そんな人にベンチャー投資なんか無理」と、朝日現役社員の評。社会部出身の毎日の朝比奈社長も投資の目利きなんぞ、できるはずがない。同じように失敗するのではないか。朝日は失敗に懲りたのか、アドバンテッジ・パートナーズ出身の岩本朗氏を役員待遇で招聘し、サーベラスの萩原利仁氏も投資担当幹部に起用している。独立性が大事な新聞社の経営において、こうした外部の人材を起用するのは極めて異例といえる。
改革の障壁は経営陣
朝日がとくにそうだが、新聞社の経営陣はジャーナリズムや新聞にあまり関心がなく、むしろ万事「事なかれ主義」で「御身大事」の保身の徒が多い。衰退してきたとはいえ、役員の年収は3,000万円~5,000万円と高禄で、使い放題の交際費も利用できる。自身が在任中は逃げ切れると思っている役員が少なくないのだ。「毎回同じようなタイプばかり。新聞社なんだから、もうちょっと記事書きが偉くならないといけないよ。朝日は革命政権でも樹立して、いまの役員を一掃しないと良くならない」。朝日幹部と親しい金融機関トップは見る。どうせ成功しっこないベンチャー投資にうつつを抜かすよりも、開設以来、一度も黒字を計上したことがない北海道からの撤退や、読者が集中している首都圏・京阪神を重視した編集・販売体制の構築など、やろうと思えばできることは少なくない。
このまま「押し紙」が続かないのは明らか。一時的に巨額赤字を計上することになるが、「押し紙」撤廃のため、一気に膿を出すことも必要だ。だが、決断力や実行力の不在が、経営戦略の欠如になって現れ、経営は漂流する。面倒なことや根本的な解決策は先送りだ。
新聞社の改革は、上層部にはびこる社内官僚や派閥人事の払拭をしないことには、どうしようもなさそうだ。
(了)
【中村 博信】
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