2024年12月27日( 金 )

世の中に絶望しなければならない事態はない。困難な状況を楽しめ!(1)

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吉野家ホールディングス 会長
CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合 特別顧問
安部 修仁 氏

 世界と日本の状況は混迷を深めている。経済的にも先の見えにくい時代といわれて久しいなかで、状況が収束するどころか、ますます複雑さを増している。このような経済の荒波をどのようにわたっていけばいいのだろうか。アルバイトとして店舗業務からスタートし、42歳の若さで社長に抜擢された安部修仁氏(現・吉野家ホールディングス会長、CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合特別顧問)は、社員時代、吉野家の倒産と再生を経験。社長に就任してからはBSE問題に直面し、当時の唯一の商品だった牛丼が売れなくなるという存亡の危機に直面する。数万人におよぶ従業員を率い、新メニューの開発などで乗り切ったリーダーシップはもはや語り草だ。そんな安部氏に、混迷する現代経営を生き抜く考え方を聞いた。

守りばかりでは委縮する、攻めの姿勢をもて

 ――この激動の時代をどうやって生き抜いていくか、さまざまな困難を乗り越えてこられた安部会長からアドバイスいただければと思います。まず、今の安部会長のお立場と、どのような活動をされているかですが。

▲安部 修仁 氏

 安部修仁氏(以下、安部) 吉野家の会長になった今は、経営の現場から離れています。昨年までは、中堅社員を対象にした勉強会などの活動を年間通してやっていましたが、それも一巡して、このごろは、社長と月に何回かミーティングするぐらいで会議にも出席しません。
 今は社外の活動に軸足を置いており、CRC企業再建・承継コンサルタント(協)の特別顧問として講演活動などを行っているほか、吉野家以外の社外取締役や外食関係の協会役員をいくつか務めているところです。

 ――長く経営の第一線で活躍されていたころから比べて、一歩引いた立場から見えてくるものもあると思います。今の安部会長から見て、日本経済、あるいは、企業経営の現状はどのように映るでしょうか。

 安部 今はもう経済だけでなく、気候や政治的な意味でも地球規模の大変換期ですから、それは大変でしょう。非常に大きな質的変化が土台から起こっています。人口というビジネスの土台となる部分がシュリンク(縮小)していくわけですから、その前提で、ビジネスのフレームをつくっていかなければならない。だけど、状況に応じたディフェンシブな対応だけに終始してはなりません。一方で、攻めの手も打っていかないと。

 ――状況に振り回され、防戦一方ではないか、ということでしょうか。

 安部 そうですね。もちろん、経営に影響を与える状況が現に起こっているので、まずはガードを固めなければならないし、目の前の現実をきちんと見据える必要はあります。しかし、リスクにばかり意識が向いてしまうと、どうしても企業体質は硬直していきます。経営者だけでなく従業員もみな不安に苛まれて、どんどんネガティブなスパイラルに陥って、自ら後退のメカニズムにはまっていくことになるんです。

 ――ピンチをチャンスに変えていくような視点の転換をすべきということですね。

 安部 というよりも、両方同時に起こっているということです。どのような状況下でも、常にピンチの面もあれば、あらゆるチャンスも潜在的にあります。まして今は大変革期です。変化というのは放っておくとリスクになりますが、同時にたくさんのチャンスも生まれています。そこで起こるいろいろな現象からチャンスの芽を読み取って、いかにビジネスに生かしていくかです。
 その際に重要なのが時間軸をもつことです。これは、ディフェンス面でもオフェンス面にもいえることですが、今起こっている変化とその先に起こることを1年サイクル、10年サイクル、30年サイクルというレンジで読みながら、そのときに自社はどうあるべきかを考えるのです。今準備しなければならないことは何か、トライアルすべきことは何かを見分け、時間軸に合わせて計画をつくっていくべきです。

 ――経営に与える社会環境の変化を現状と将来予測で見て、ポジティブなものもネガティブなものも同じ土俵に上げて、一定の時間軸で計画に落とし込んでいくということでしょうか。

 安部 そうです。経営者になったからには、何年後にはこうなっていたい、将来はこういう会社を目指したいという大きなテーマがあるはずです。
 ところが、それがないまま刹那的に経営していると、不安に苛まれるばかりになるし、自分が目指すべきことではなく周りばかりが気になり、同業者の動きや先行事例の追随に終始することになります。その先に未来はないのです。1年後、5年後、こうなりたいという姿を描いて、それに対して現状を棚卸して、できていることとできていないことを評価する。現実に起こっていることを踏まえたうえで計画に修正を加え、実践するという繰り返しの先にしか未来はありません。

(つづく)
【聞き手・文・構成:太田 聡】

<プロフィール>
安部 修仁(あべ・しゅうじ)

1949年福岡県生まれ。プロのミュージシャンを目指して上京。生計を立てるためにアルバイトとして入った吉野家で、当時の松田瑞穂社長に見出されて72年正社員に登用。九州地区本部長、営業部長、取締役開発部長を経て、86年子会社取締役に就任。その後も吉野家ディー・アンド・シー常務、同専務を経て92年に代表取締役社長就任。2007年には改組にともない吉野家ホールディングス社長に就任。社員時代の83年に倒産から再建までの苦難の道のりを経験。経営者になってからは、BSE問題やライバルとの牛丼戦争に直面し、社員の先頭に立って戦い抜く。2014年5月、会長職に就任したのを機に経営の一線から退き、後進の指導に専念。現在は、CRCの特別顧問を兼務する。

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