AI時代とベーシックインカム(BI)(前)
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大さんのシニアリポート第71回
運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)で、最近話題になっていることがある。人生の最後は在宅で死にたいという常連からの希望だ。しかし、残念ながら8割超の人が施設や病院で最期を迎える。施設への入所で気になることは、自分が希望する介護をしてくれるかどうか、介護士と相性が合うかどうかである。先日あった「介護」に関する市民大学講座でのこと。「希望する介護を期待できないなら、ロボットに介護してもらうという選択肢もある」という参加者の発言に驚愕した。ロボットに介護される?
66歳のときに2年間介護の専門学校に通い、介護福祉士の資格を得て、現在施設で働いている妻が、「資格の有無とは関係なしに、介護に不向きの人がいるのは事実。利用者と良好な関係を結べないコミュケーション能力が欠如した介護人が少なくない。利用者の振る舞いに激高して、ののしり倒す介護人もいる」という。終の棲家で理不尽な振る舞いをされたら、利用者は追い詰められた気持ちになるだろう。
確かに介護の現場は過酷で低賃金。離職率も4割を超す。ロボットというと金属的な冷たいイメージがあり、人間の肌のぬくもりとロボットとでは大いに違和感を覚えるが、近い将来にはAI(人工知能)とシリコンを駆使した人間の肌と寸分違わないロボット介護士が誕生するだろう。利用者の無理難題にも完璧に応える。愚痴ひとつこぼさない。豊満な(イケメンの)ロボット介護士に抱かれながら入浴や排泄介助される日はそこまできている。「利用者の多くは認知症だから、人間の介護士と区別がつかないでしょう。コミュニケーションがとれない介護士より、自分の希望を完全に叶えてくれるロボット介護士の方がいい」と妻はいう。「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(TBSラジオ 10月5日)のなかで、宮台真司(社会学者 首都大学東京教授)が、「人間的でない人間と、人間的なAIロボットとどっちが良いか、いうまでもないでしょう」という内容の発言をした。仕事がAIロボットに奪われる。現実の話である。
興味深い本と出会った。『AI時代の新・ベーシックインカム論』(井上智洋 光文社新書)である。表紙の帯には、「未来社会は『脱労働社会』 近代資本主義の克服」とある。ベーシックインカム(BI)とは、「政府がすべての人に必要最低限の生活を保障する収入を、無条件に支給する制度」を指す。井上は「BI」の導入理由について、「格差の拡大や貧困の増大を改善する手段としての期待」「人工知能(AI)やロボットが多くの人の雇用を奪うようになるから」と説明する。後者について妻は「確実に(人間の皮膚感覚をもった)介護ロボットが間もなくできる」という。「介護職のなり手がない」という不安はそう遠くない時期(20年後という人もいる)に解消するだろうが、20年後からは介護を必要とする高齢者も徐々に減ってくるという矛盾もある…。(つづく)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。関連キーワード
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