2024年12月22日( 日 )

【特別寄稿】KYB免震・制振装置データ改ざん問題~国・東京都・大手企業の二枚舌(前)

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(協)建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏

 KYBによる免震・制振装置のデータ改ざんについて、国土交通省は「震度7の地震でも安全性には問題はない」とコメントしている。地震の震度は震度7が上限であり、震度7弱や震度7強の区別はない。仮に震度7以上の震度を設定した場合に「震度8」「震度9」となる規模の揺れであっても、すべて「震度7」とされている。それ故、震度7のカテゴリーのなかには、揺れの強さに非常に大きな差が混在する。

極めて無責任な安全宣言

 同じ震度7という地震であっても、地震力の大きさは100倍以上の違いとなる。通常、震度7におよべば、建物の骨組が損傷を受けていなくても、建物内部の非耐力壁などが先に破壊されてくる。免震・制振・耐震の概念は、基本的には、この建物の骨格を守るための設計方法である。

 建築関係法規の基準値は、あくまで、許容される建物の安全の最低ラインを規制しているのである。今回のKYBのようなデータ改ざんが行われても、検証もせずに「安全」と国がお墨付きを与えるのであれば、安全の法的基準値を引き下げるべきである。そうしなければ、建築主は、不必要な建築資金を負担していることになり、不当な不利益を蒙っていることにもなる。

 詳細な調査も行われていない段階で、「震度7の地震でも安全性に問題はない」と国交省が断言していることに強い違和感を覚えるし、極めて無責任な発言であると言わざるを得ない。
大まかでも構わないので、国交省は「安全」の根拠を示すべきである。

 国交省本庁の建物である中央合同庁舎3号館にもKYBのダンパーが使用されている。国交省が「震度7でも安全」と断言するのであれば、国交省本庁のダンパーの交換はすべての対象物件の最後に交換作業を実施すべきである。もし、早期に国交省の建物のダンパーが交換されれば、それは、「安全性に問題がある」といっているのも同然。国交省の信頼性が大きく失墜することとなる。

 免震ダンパーには自動車のブレーキと同じような働きがある。硬すぎれば動かず(逆に危険)、柔らかすぎれば想定以上に大きく動いてしまう(いわゆる雨天の高速道路走行と同じである)。

 ダンパーには各製品に基準値があり、減衰する力は速度域ごとに大きすぎても小さすぎてもいけない。乖離値(ばらつき)は国交相認定における免震材料の場合で±15%以内と定められている。KYBの改ざんは、れっきとした違法行為である。

毀損された資産価値

 一般的に、建築物の耐震強度は少し余裕をもって設計されている。耐震強度の余裕の分だけ、建物の構造上の価値があるともいえる。たとえば、耐震強度が130%である建物が、問題のダンパーを使用しているために、実際の耐震強度が105%しかない場合、最低の安全の基準である100%を上回っているとはいえ、25%もの耐震強度を毀損しており、建物の価値も毀損しているのである。

 国交省の「安全性に問題ない」というコメントが「耐震強度が100%以上ある」というものであるならば、本来持ち合わせている「余裕ある耐震強度」が毀損された分は、建物の資産価値を減らされたという点において、盗まれたも同然なのであり、KYBの行為は違法行為だ。

 現状は、不正な免震・制振装置の交換に何年かかるか見通しが立たない状況であり、所有者のなかには 当然 売却を考える方がいるはずである。しかし、不動産取引の際の重要事項説明において、建物の違法性を隠しての売買は法律違反となるので、この問題はオープンにしておかなければ、民間の建物所有者は 物件の売買自体ができない。事実を隠して売買をすれば、当然 違法となる。

 このような状況下において、「建物所有者の了解を得てから物件名を公表する」などという悠長なことを言っている場合ではない。建物の所有者にとっては、発表されたくないという事情は理解できるが、そうかといって事実を隠すことはできない。また、不動産を担保として借入をしている場合、金融機関から担保の追加などを求められることが考えられ、経済事情にも影響がおよぶことも懸念される。

 分譲マンションの場合、区分所有者の大半は住宅ローンを抱えている。KYBの不正により、本来建物が有しているはずの耐力を毀損されていることは、すなわち、資産価値を減少させられていることであり、実際の価値よりも相当高い金額を住宅ローンとして払っていることになる。マンションを担保としてローンを設定している金融機関にとっても、担保価値が減少し売買が成立しないとなれば、期限の利益を失い、区分所有者に一括返済を迫るという苦渋の決断を迫られる事態も考えられる。

 一方 区分所有者からすれば 提携ローンを設定した金融機関に対して、マンションの瑕疵を隠して実際の価値よりも高額なローンを組まされたことについての賠償をデベロッパーと金融機関(どちらにも責任がある)に求めることが考えられる。(抗弁権の接続)このような事態になれば、不動産市場に限らず、日本経済も大きな混乱を招くこととなる。

(つづく)

(後)

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