【シシリー島便り】シシリーママの「過保護」事情~グループチャットが大流行り
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娘が学校に通うようになった7、8年前の秋、イタリアではじめて「シラミ」という言葉を聞いた。ある生徒からシラミが見つかったとのことで、学校は全校生徒に注意を促した。母親たちは恐怖とパニックでひたすらシラミ防止対策をした。グループチャットで「薬局で●●を購入した」と母親同士で情報共有し、シラミ防止用スプレー、シャンプーなどを購入した。また狂ったように洗濯をする母親もいた。私も娘たちの長い髪が心配で、常に結んで学校に通わせていた。
これまでシラミが発生するたびに学校から「子どもたちの髪をチェックするように」との通達があった。そのたびに心配していたが、今回初めて娘の頭からシラミが見つかった。
「ママ、頭が痒い」と訴えた娘。あまり疑っていなかったが、念のため髪の毛をチェック。とくに何も見当たらなかった。しかし、数日しても痒みがおさまらないので「もしかしたらシャンプーがよくないのかもしれない」と、薬局でデリケート肌用のシャンプーを購入した。それでも痒みがおさまらない娘。もう一度髪の毛をよく見てみた。すると、ものすごく小さなものが髪にいくつか見つかった。旦那にも見せてみたのだが、お互いシラミがどのようなものか見たことがなく、ネットでシラミの写真を検索した。ヒットした写真を見ると、何となく似ているように思えた。
翌日、薬局でシラミ用のシャンプーを購入し、試してみた。すると小さな虫が娘の頭皮にくっついているではないか。気持ち悪いと同時にショックだったが、娘を動揺させないようにと、平静を装った。後日、娘の友だちのママたちにこの件についての相談をした。娘は「いじめにあうのが怖い」と気にしていたので、ママたちには、事前にその旨を伝えていた。ママたちはそれぞれの体験談を語ってくれ、いろいろな話が聞けてほっとしたのと同時に、同じ経験のあるママたちが多いことに驚いた。今時、日本の学校でもよくあることなのだろうか。クラスのママたちのグループチャットは、さまざまなことに活用される。世間話から重要事項の伝達まで、ありとあらゆる内容が投稿されるのだ。1時間ぐらい見ないと、すぐ30を超えるメッセージが、そのグループだけで投稿されているほどだ。そのグループチャットで、あまり感心しないことがある。ママたちが子どもの宿題の内容についてチャットすることだ。
私も子どもが学校を休んだ時は、その日の学習内容や、次回の宿題の内容などを聞くのに役立ててはいるが、そこで主に投稿されているのは「宿題は何ページ?」「提出期限はいつ?」「子どもが教科書を学校に忘れたので宿題のページの写真を載せてほしい」などの内容だ。毎日この手のメッセージがたくさんくるので、少々うんざりしており、最近では読まずに消去することにしている。私が小学生のころは携帯電話などなかったが、親が子どものためにほかの親に連絡をとることはほとんどなかったと思う。きちんと勉強しているかどうか、母がよく部屋に覗きにきていたが、学校の宿題についてほかの親へ電話で聞いている姿は、見た覚えがない。シシリーママたちの過保護さは異常ともいえる。
違う箇所の宿題をしてしまったとしても、それは子どもの責任だ。次の日、先生に間違いを指摘されることによって「次回は気を付けよう」という気持ちが芽生える。そうした気持ちを育てることこそが大切だと思うのだ。だが、シシリーではママたちが何でも先回りして準備してしまう。持ち物もそうだ。「忘れ物がないか」「学校に忘れてきたものがないか」どうか、カバンの中身を常にママがチェックしている。こんなことを続けていくと子どもは何もしなくていいと思うようになり、自分で気を付ける能力が育たなくなる。私は、こうしたシシリー流の子育て方に反対だ。
忘れ物は自分の責任なので、あえて忘れものチェックはしない。宿題も、子どもたちが「分からないから教えてほしい」と言ってきた場合は、そばで勉強を見てあげるが、宿題のページがあっているかどうかなどについては、子どもたちに任せている。シシリーでは子どもの交友関係にも親が介入してくる。
女の子同士は男の子同士よりも友達関係が複雑だ。女の子の場合、必ずと言っていいほどお友達グループがクラスのなかにいくつかできる。
上の娘の小学校時代の同級生で、今は違う中学にいる女の子のママから聞いた話がある。クラスで小学校から同級生の仲良し女子グループに入りたくても入れない子の母親が、ある朝の登校時間、公衆の面前で、ある女の子に対し「娘が仲良くしたいと思っている子に近づかないで」と怒鳴りつけたのだそうだ。すると当然のように相手の母親も出てきて口論となり、人だかりができていたという。娘を思うあまりの行動だろうが、これでは逆効果になるのでは、と思う。
親は毎日が勉強だとつくづく思う。世界共通だが、子どもを教育するためにも、自分自身が大人としての責任を強く持たないといけない。甘いシシリーママのもとで育った子どもたちの将来が心配だ。<プロフィール>
神島 えりな(かみしま・えりな)
2000年上智大学外国語学部ポルトガル語学科を卒業後、東京の旅行会社に就職。約2年半勤めたのち同社を退職、単身イタリアへ。2003年7月、シシリー島パレルモの旅行会社に就職、現在に至る。関連キーワード
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