2024年09月01日( 日 )

日本国民として弾劾する日本相撲協会の違法行為(13)

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青沼隆郎の法律講座 第18回

告発権の法性決定

 明確な所轄庁の強権規定がありながら、それに対する主権者国民の要求権の規定がないこと、つまり、強権規定が完全な所轄庁の自由裁量権かのごとき外観は文字通り玉虫色規定であり、過誤立法であることは前述したが、これに関連する法的問題が相撲協会の今回の不祥事でも発生した「告発状の取り下げ」問題である。

 告発が単なる、「お願い」である「陳情」・「上申」であれば、そもそも「取り下げ」という法律行為は存在しない。「取り下げ」が何らかの法律行為であり、その法律効果とは何か、という議論を抜きには、ただの井戸端会議の議論に過ぎなくなる。

 貴乃花親方の代理人弁護士の立場は、当然、「取り下げ」は法律行為であり、告発の効果そのものが発生しないことを意図する「撤回」と認識したと推察できる。しかしこれは自己に対する利益処分を求める請求行為ならまだしも、所轄庁の第三者に対する不利益処分を公益財団法人法に基づく公共性の観点から、公正公平行政の実現を求めるものであるから、貴乃花親方の個人的立場・利益を超えたものである。それは仮に、所轄庁が協会には告発事実のような違法業務執行はない(※)、と認定しても、告発者にはその認定を争う、法的利益はないからである。

 国民、つまり告発者には管理監督権の発動を求める権利はあっても、所轄庁の認定を争う具体的権利はない。従って告発者の取り下げには何らの法的効果を発生させる法的根拠がない。告発者がたまたま違法業務行為による被害者というに過ぎず、たとえば、筆者が、協会の不正業務執行を告発した場合、そもそも個人的利益不利益の問題はないから、その取り下げには一層、何の意味もない。ただ、貴乃花親方の取り下げの場合には、違法な理事降格処分を、争う手段としては、告発という手段はとらないと表明した意味はある。もちろん、その意思表明自体は所轄庁に向けられたものではなく協会にむけられたものである。

 問題は、告発が国民の国務請求権の行使であれば、1人の行使であれ、複数人の行使であれ、それは関係ない。従って、その取り下げも意味がない。1人による行使もそれは多人数による行使と同じく、所轄庁にとっては管理監督権の義務的発動の端緒となるという点は同じだからである。これを法律的に構成すれば、告発の受理は行政処分であり、その結果、発生した所轄庁の管理監督履行義務は公的義務であり、告発者の意思で左右することができないものだからである。

 これは法的には、協会の違法業務執行の問題から、所轄庁の不適切行政行為の問題となったことを意味する。告発人は、当該所轄庁の業務を違法業務として、争うことになる。その場合、所轄庁の事実認定に基づく協会への不処罰が違法業務との法律構成となるが、所轄庁の認定は告発人への処分性がないため、告発人は所轄庁による適正な管理監督処分がないことによる、法的損害を主張して損害賠償の請求を求める他ない。所轄庁に適正な管理監督処分自体を求める法的手段は現在のところない。

 義務づけ訴訟はその請求権が明文の規定に基づく必要があるとするのが判例であり、国務請求権による管理監督の発動までは、解釈による法令上の根拠規定性は何とかできても、実際に所轄庁が、管理監督権の行使をして出した認定結果については、それを争う法的根拠規定は存在しない。国務請求権の内在的限界と理解する他ない。

(了)

所轄庁が、告発状を受理し、立入り調査下結果、告発人の主張する違法業務の事実は無かったとの結論に達し、その旨、告発人に通知した場合

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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