【シシリー島便り】プーピー人形劇
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「プーピー人形劇」を見に行きたい、という問い合わせをいただくことが多い。夕方5時過ぎには真っ暗になってしまうこの季節は、街中の散策もそうそうに切り上げないといけない。食事までの時間をどうやって過ごそうか、という時におススメなのが「プーピー人形劇」だ。
ラテン語の“pupus”からきている“pupo”には、子どもという意味がある。人形師たちは、自分の子どもを扱うかのようなテクニックで人形を自由自在に操る。18世紀に生まれたとされるマリオネットは、ナポリ、カターニア、パレルモで広がった。
そのなかでもパレルモの人形が一番小ぶりで、長さ約80cm、重さは約20kgだ。カターニアの人形は、長さが約130cm、重さ約40kgのものもある。舞台セットは、シチリア荷馬車のカレットと同じく、目立つはっきりとした色合いのものだ。昔は、人形劇の宣伝のために、4コマ漫画のような絵を劇場の入口周辺に飾っていたそうだ。
貴族の間では、中世の騎士道の物語が人気だった。やがて大衆にも広まっていき、マフィアの物語などの人形劇が毎日のように催されるようになった。人形師一家は、シシリー中およびイタリア中を巡業した。テレビなどの娯楽がなかった当時、人形劇を行う劇場は人々が集う憩いの場でもあった。
人形師は1人で何体もの人形を動かす。現在もマイクなどは一切使わないが、説得力のある声が辺りに響きわたる。言葉はシシリー方言でイタリア語とは、多少異なる。地元の子どもたちが目を輝かせて人形劇を見る姿に、ほっとさせられる。携帯電話のゲームに虜になってしまった現代の子どもたちだが、伝統ある人形劇がもつ魅力を改めて痛感した。
人形劇の内容はさまざまだが、中世の騎士が闘いに勝利し、お姫さまを救うという単純なストーリーが人気だ。言葉はわからなくても、見ていると内容がわかるからだ。また昔ながらの手動式オルガンも味があり、劇中で馬の蹄の音や、ホラ貝の音色などを表現している。
人形師の一家は3人ほどで、それぞれの仕事を分担する。5、6歳の息子ももちろん手伝う。彼に将来の夢は何か尋ねてみると、「サッカー選手になりたい」という返事が返ってきた。友だちとサッカーをして遊ぶ姿は、ほかの国の子どもと変わらないが、嫌がらずに父の仕事を手伝うこの息子は、きっと父のような偉大な人形師になることだろう。
人形を自由自在に動かすのは、簡単なように見えて、習得までに何年も時間がかかる。伝統に魅せられた若者たちが、人形師見習いとして勉強しに来ることもあるが、予想以上の過酷さに脱落してしまう者も多いという。
パレルモの人形師ファミリーは、cuticchio、Argento、Mancusoなどだ。「プーピー人形劇」そのものがユネスコ無形文化遺産に登録されており、最近ではヨーロッパのほかの国でも人気で、ベルギーなどでの海外巡業も定期的に行っているそうだ。
パレルモには「マリオネット博物館」があり、世界中のマリオネットが展示されている。東南アジアやアフリカのものなど、宗教的なものもある。また水のなかや影絵を利用する劇などの紹介をしているのも興味深い。日本の人形浄瑠璃も展示されており、係員が「文楽」という言葉で案内していた。同博物館では人形フェスティバルやコンクールなども定期的に開催されているそうだ。
プーピー人形劇を学校の課外授業にしているところもある。テレビの普及とともに衰退してしまった人形劇だが、文化遺産として今後も注目されていくことを願ってやまない。
<プロフィール>
神島 えりな(かみしま・えりな)
2000年上智大学外国語学部ポルトガル語学科を卒業後、東京の旅行会社に就職。約2年半勤めたのち同社を退職、単身イタリアへ。2003年7月、シシリー島パレルモの旅行会社に就職、現在に至る。関連キーワード
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