2024年11月14日( 木 )

シリーズ・地球は何処に向かう、日本人はどうなる(9)~貴方の老後は貧か富か(1)

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 2019年度の予算案が固まり、一般会計総額が100兆円を超えることがわかった。そのうち、年金、生活保護費、医療保険費などの社会保障費は過去最高を更新した。
 高齢者に対する日本の年金、医療保障レベルはおそらく世界一ではないだろうか。社会主義国家と比較しても、はるかに恵まれているといえるだろう。恵まれているからこそ平均寿命も世界トップクラスだ。女性の平均寿命は87.26歳、男性は81.09歳である。
 60歳で定年を迎えた人の場合、仮に90歳まで生きたとすると30年間、国から年金が支給され、自身の健康を維持できてきた。
 しかし、少子化が進行し、現役世代が減少することで、我が国の社会保障システムは崩壊の危機に瀕している。
 今回のテーマは「貴方の老後は貧か富か」についてである。富の方々は『現生の天国』を謳歌している。一方、貧の方々は孤独で死ぬことばかり考えている。 
 今回は『大さんのシニアレポート』から『老後が貧の方々』の報告をしたい。


日本高齢社会最前線~無縁社会の実相『誰も気にかけない』

大さんのシニアリポート第73回

 私が住む地域は、すべて中高層の集合住宅である。戸建がない。だからなのだろうか、毎年1、2件の飛び降り自殺がある。若い人もいれば高齢者もいる。若い人の場合には、必ずといっていいほど、現場に花が手向けられ、手を合わせる人がいる。しかし、高齢者の場合、花どころか遺体を片付けた後、簡単な現場処理をしておしまい。数日の間、住民の間で話題になることはあっても、すぐに忘れ去られる。こうした「特殊な死」ばかりではなく、「通常の死」でさえ、住民の記憶に長く残されることはない。無縁社会の真の姿がここにはある。

老いた団地が人も絆も殺す

 4年前の春、私は飛び降りたばかりの遺体を目にしたことがある。生体反応のない女性の遺体は、私には単なる「モノ」としか見えず、恐怖を覚えることはなかった。顔見知りの住民が、自分の上着を脱いで遺体にかけ、人目につかないように覆い隠した。ただ、小学校の下校時と重なり、偶然通りかかった女子児童の目の前に落下したため、血糊を浴びた児童は長い間トラウマになったと聞いた。その自殺もすぐに住民の記憶から消えた。「あのころはみんな若かったから、当然のように挨拶も交わしたし、部屋を訪れることも多かった。でも、みんないなくなった。新しい人は挨拶もしないし、月一のお掃除にも出てこない。知らない人だらけ…」。築38年の公営住宅に当初から住む女性は、こう言って昔を懐かしんだ。老いた団地が人も絆も殺している。

 時代が大きく変化していると実感したのは、「大さんのシニアリポート」でも再三紹介している2件の「棄老事件」の時だった。そのうちの1件は、実の子どもが高齢で、認知症の両親を看ようとしない。両親とは離れて暮らしているとはいえ、会いにきた形跡すらない。緊急搬送時も、社会福祉協議会(以下、社協)の社会福祉士と私に丸投げされた。

 運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下、「ぐるり」)の常連だったこともあり、私は夫婦の施設入所まで関わった。正直、他人の私が最後まで看るということにいささか矛盾を感じた。「それがボランティアなの」と社協の職員に言われたが、今でも納得できない自分がいることを否定しない。

 集合住宅は、「プライバシーの確保」という観点から、もてはやされてきた歴史をもつ。しかし、集合住宅がもつ「遮断性」「遮音性」が、逆に「孤立感」「疎外感」を合わせもつという宿命を背負う。それが多くの孤独死を生み、住民の無関心を生んできたのだ。

 この地域には、子どもへの虐待やネグレクト、DV、共依存における親への暴力、ギャンブル依存症の親の放棄など、およそ世間で耳目を集めているさまざまな「棄老」がある。それが現実として顕在化してこないのは、住民の無関心さばかりではない。

 「個人情報保護法」という悪法が行政の縦割り、情報の共有化の壁をつくる。その情報は当然住民へも開示されない。それが「実相の潜在化」を生み、自分が住む地域で何が起きているかを知る機会を奪うことになるのだ。行政マンはそれに気づいていても「仕事上の既得権」が“情報の開示”を許すことをしない。

 ここは飛び降り自殺のメッカ、住民の“死”に対する無関心など、「無縁社会の見本」のような地域である。

(つづく)

<プロフィール>
大山 眞人(おおやま・まひと)

1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。ニュースサイト「NetIB-NEWS」で『大さんのシニアレポート』を連載中。2月に『親を棄てる子どもたち』(仮題・平凡社新書)を刊行予定。近著に、『悪徳商法』(文春新書)、『団地が死んでいく』(平凡社新書)、『騙されたがる人たち』(講談社)など。

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