流通からみる「働き方改革」 100年に一度の環境変化にどう対応すべきか(後)
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副業を認める
我が国では公務員だけでなく、一般企業でも副業禁止が普通だった。しかし今、副業を認める企業が増えてきている。本業の停滞感に加えて、市場成長が期待できない少子・高齢化のなかで多くの企業が社内ベンチャーを推進してきた。しかし、社内である限りそこに切迫感はない。最後は会社が面倒をみてくれるという防波堤があるからだ。結果として、企業が期待する斬新かつ画期的な新規事業が生まれることは少なかった。仕方なく企業は副業を認めるという手法の変更に乗り出した。副業には所属企業のサポートがない。その代わり自分でつくり出す価値は自分に帰属する。大きな価値を生めばそれは高く売れるから自然と真剣になる。これも働き方改革の1つだ。
しかし、傾向があればそこには対策が生まれる。今後、企業がシフトするのは人手不足を補うAIだ。近い将来、おそらく多くの仕事が人手からAI搭載のロボットに移行する。
たとえば、アマゾンのフルフィルメントセンターはその端緒だ。人に代って、ピッキングといわれる商品選択をルンバ型ロボットが行っている。重量340㎏まで積載可能で秒速1.7mの移動速度だ。受注商品がストックされた棚を自動的にもち上げ、ピッカーのところまで運んでくる。当然、ピッカーが棚から棚へ動きまわって商品をピッキングするのに比べてはるかに高い効率が実現する。さらにロボットには労働基準法が適用されない。冷暖房も休憩室も社員食堂も要らない。休むのは充電時だけでしかもそれは短時間で済む。
何より建設費の面で有利だ。ロボット倉庫なら床に誘導配線をするだけですみ、従来型センターのように大がかりな倉庫内設備が要らない。通常建設期間が1年以上かかる大型センターもロボット型なら数週間で出来上がる。
ルンバ型ロボットを1万台導入すれば年間100億円程度の人件費節減になるという。時間給1,500円で2,000時間の年間労働時間とした場合、約3万人に匹敵する。コストだけの問題ではない。倉庫の運営に人は要らないということだ。
何かが足りなくなるとそれを別のもので補うのが人間の基本行動だ。従来は“人手不足”を同じ“人手”で補った。戦後、農村から都会への人口の大移動があった。都会の人手不足を補うために地方からの労働力の水平補充だ。そして今、アジアの途上国から多くの若者が我が国にやってきている。留学だけが目的ではない。彼らの最終目的はより豊かな暮らしだ。しかし、より良い条件を求めて常に流動している国際的な労働力は少なくない問題も生むことがある。たとえば中国が好例だ。20年ほど前は安い労働力が多くに存在した。しかし、今は違う。中国に進出した労働集約型の企業は労務コストの上昇で小さくない困難に遭遇している。アパレルなど自社で工場をもたない企業は東南アジアや南米、西ヨーロッパなどに調達地、つまり生産コストを容易に変更できるが、自社工場をもち設備一式を投資している企業は簡単に動けない。原材料費についで高いコストの人件費の上昇は企業にとって大問題だ。このような状況とテクノロジーの進化が一体になると“人が要らない構造”へと変化するのは当然だ。
これは何も先述したような配送センターだけの話ではない。タクシーやハイヤー、バス、トラックの乗務員、スーパーマーケットのレジ係。いずれも厳しい人手不足に見舞われている職種だ。しかし、そう遠くない将来、これらの仕事に人間が関わらなくなる。株の売買や銀行の与信業務もAIという“新人類”にその仕事が移る。
このようになるともう従来発想の働き方改革は馴染まない。もはや改革ではなく、革命だ。革命には多くの血が流れる。働く人が働かせる人と交渉してより有利な条件を勝ち取るというのが働き方改善の基本だが、働く場がなくなればその交渉の余地はなくなる。そうなると自らが時代に合わせて起業し将来を切り拓くしかない。しかし、それは誰もができることではない。
行きは遠いが帰りは近い。変化はある時点を過ぎると元に戻れなくなりさらに急激に進む。いわゆるエントロピーだ。100年に一度といわれるこのような環境変化に個人個人が対応するのは容易ではない。変化によって何が生まれるかも大きな問題である。
歴史的に見れば、技術革新は人々から多くの仕事を奪った反面、それより多くの別な仕事を生み出し、それは人々にとって多くの豊かさももたらした。しかし、AIが進化しているだろう未来に新たにやりがいのある多くの仕事が生まれるとは言い切れない。
職業選択の自由は動物にたとえれば野に生きる自由でもある。野には危険もあるが何よりも自由がある。一方、檻に飼われる生き物には安全はあっても自由はない。働き方改革の先に「ベーシックインカム」という檻の姿も見え隠れする現代である。(了)
【神戸 彲】
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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