参政党・福岡天神での演説会に約3,000人集まる~排外主義への懸念の声も
参院選の折り返しとなる12日と13日、13人の候補者が立候補し、全国でも激戦となっている福岡県選挙区(改選定数3)では、各党の幹部が応援に入り、盛り上がりを見せた。なかでも、12日午後5時半から福岡市天神の警固公園で行われた参政党の演説会には、主催者発表で約3,000人の聴衆・支援者が詰めかけた。
生活実感からの訴え
この日は自民党現職の松山政司氏・公明党現職の下野六太氏の応援に、小泉進次郎農林水産大臣が駆け付けたが、その際に集まった聴衆の数を大きく上回る規模であった。
演説会開会直前から強い雨が降るなか、地元放送局を中心に在京メディアなど多くの報道関係者が集まった。

参政党の候補者である中田優子氏は、「私たち参政党は一時しのぎの政策ではなく、この日本の現状をまず皆さまに確実にお伝えして根本原因を解決していきたい」と述べた。そして、「働きながら一児の子どもを育ててまいりました。頑張っても、頑張っても日本人のお給料は上がらない」「今までの政権・政治家がやってきた政治が間違っているからではないか」と指摘した。
続いて、元財務官僚・衆議院議員の松田学氏(比例候補)が登壇し「財務省解体と思ってますよね。皆さんが大嫌いな財務省出身です」と自己紹介すると、笑い声が起こった。「財務省は、昔は大蔵省と呼んでいた。大蔵省はもっとましな役所だった」「大蔵省を解体したのは海外のグローバル金融勢力である」と述べたうえで、「日本人の資産を自分たち(グローバル勢力)がマネジメントしたいから構造改革なるおかしなものが行われ、私たち日本の国柄が失われ、日本の経済の強さが失われた」と訴えた。
グローバル化への懸念と差別批判への反論

多くの聴衆は神谷氏の演説に関心をもって参加していたようで、代表の神谷宗幣氏が登場すると拍手が起こった。
参政党の急速な台頭に対し、リベラル派などから「排外主義」と懸念や批判が強まっているが、神谷氏はこれに言及し、「私たちがなぜたたかれるのかわからない。一生懸命街頭演説をしているだけ」と述べ、「国民の生活を考えて日本人ファーストの当たり前の政治を目指している。それのどこが差別なのかわからないし、どこがヘイトなのかまったくわかりません」と語った。
また、日本経済の低迷や経済格差の拡大について「日本人が働いてもお金がなくなるのは、土地や不動産、企業の株などをどんどん外国人にもたれすぎたからだ」と主張。「働いた利益が海外に逃げていくことがグローバリズムで、『日本人ファースト』とは、行き過ぎたグローバリズムに歯止めをかけることである」と強調した。
「外国人を優遇する福岡の国家戦略特区、そんな政策ではダメなんですよ」と声を張り上げると、「そうだ」との声が上がった。安倍政権下の2014年に、福岡市は「グローバル創業・雇用創出特区」の指定を受け、外国人創業の促進やスタートアップ企業の支援などを進めてきた。神谷氏の発言からは、参政党の少なくない支持層が、安倍政権を含む自民党政権下での経済・社会政策に強い不満を抱いていたことが読み取れる。
「外国人」という点を除けば、保守層だけでなくリベラル層とも共通する構造改革や新自由主義政策への批判といえる。参政党の伸長は、自民党を支持してきた保守層だけでなく、れいわ新選組や国民民主党の支持者をも取り込んできたことが大きいといわれる。
世界的に台頭する反グローバリズム
反グローバリズムは、トランプ旋風にみられるように世界的に広がりつつある。1999年11月に米国シアトルで開かれたWTO総会に反対するデモが大きなきっかけといわれる。当初は、新自由主義への批判や労働者の連帯を強調する左派的な運動だったが、2000年代以降は自由貿易や移民の受け入れへの批判といった右派的な流れが強まった。
日本においても、小泉政権下で行われた郵政民営化や規制緩和の弊害を指摘する声は、左右から上がっている。岸田文雄前首相が総裁選時に「新自由主義の見直し」「分断から協調へ」を掲げ総裁選に勝利したことは記憶に新しい。
参政党が台頭した背景として、大企業やアメリカに配慮した政策が続く一方で、所得が向上せず、中間層の没落への危機感があることは間違いない。
自民・公明だけでなく、旧民主党系の立憲民主党や国民民主党、リベラル左派の共産党や社民党といった既存政党が、政治や経済状況に不満を持つ中間層の受け皿になっておらず、新興勢力としてSNSを通じて広がった参政党が急伸することとなった。
警固公園の演説会に集まった聴衆も、年齢層の幅はあるが、若い世代や子育て中の女性が目立ち、政治にそれまで関心が薄かった人々が生活実感のなかから参加しているようだ。
一方で、参政党が掲げる憲法案や外国人政策に対して「排外主義」などの批判が高まっており、各地で同党の候補者の活動に「外国人差別をやめろ」などのプラカードを掲げた人たちが抗議の声を上げている。
12日に放送されたTBSの『報道特集』では、参政党の政策や神谷代表の発言を紹介したうえで、キャスターが排外主義の台頭に警戒を表明する一幕もあった。これに対し、同党は「選挙報道として著しく公平性・中立性を欠く内容」だとして抗議文を出すなど、波紋が広がっている。
今回の参院選において、参政党は福岡選挙区をはじめ各地で議席を得る可能性があり、比例を含めて大幅な議席増が見込まれる。同党の伸長は、組織・団体の影響力が強かった日本の政治にとって、大きな転換ともいえる。
同党の憂国の思いは理解しながらも、「日本の国柄」「日本人としてのアイデンティティ」とは、自国中心主義ではなく、古来より外国の文化を取り入れつつ発展・醸成してきたものであることをぜひ考えていただきたい。

【近藤将勝】