国際政治学者 和田大樹
2025年7月、トランプ政権が発足して半年が経過した。第47代米大統領として2期目のスタートを切ったドナルド・トランプ氏はアメリカファーストを掲げ、保護主義や相互関税を軸とした政策を強力に推進している。この姿勢により、米国が孤立主義の道を進んでいるとの声が広がっている。そして、筆者がこの半年間で感じてきたことの1つに、トランプ政権とグローバルサウスの関係があるが、この期間、トランプ氏本人からグローバルサウスについての言及はほぼ耳にしない。要は、グローバルサウスとの関係構築は、トランプ政権の優先順位として低いと想定されるが、グローバルサウスに属する国々のなかでは、今後中国との関係を重視する動きがより顕著になる可能性が考えられる。
トランプ政権は、発足初日からアメリカファーストを体現する政策を矢継ぎ早に打ち出してきた。貿易では4月に相互関税を発表し、米国市場へのアクセスを制限する一方、国内産業の保護を優先する姿勢を鮮明にした。この孤立主義的傾向は、気候変動や国際機関への関与でも顕著だ。トランプ氏はパリ協定からの再離脱を表明し、国連や世界貿易機関への拠出金の削減を提案したが、こうした政策はグローバルサウス諸国にとって、米国が国際社会のリーダーシップを放棄しつつあるとの印象を与えている。
グローバルサウス諸国は、歴史的に大国間の競争のなかで自らの利益を最大化する戦略を取ってきた。しかし、トランプ政権によって米国が内向きになるなか、今後は中国との関係強化に目を向ける国々がいっそう増える可能性がある。中国は一帯一路を通じて、アフリカ、東南アジア、中南米へのインフラ投資を拡大し、グローバルサウスに対する影響力を急速に拡大している。また、中国は5Gネットワークや港湾開発など戦略的プロジェクトで存在感を示し、グローバルサウスのニーズに応える姿勢を強調しているが、トランプ政権は対照的にこうした国々への経済支援や技術協力よりも、国内経済の強化を優先している。
無論、グローバルサウスといっても、各国の状況は一様ではない。インドやブラジルのような地域大国は、米国と中国の両方との関係を維持しつつ、自国の利益を追求する多極化戦略を取っている。一方、経済的に脆弱(ぜいじゃく)な国々は、中国の融資や投資に依存する傾向が強く、米国の関与が減ることで選択肢が狭まっている。たとえば、パキスタンなどはインフラプロジェクトで中国に大きく依存しており、米国の孤立主義がいっそう進めば、中国への傾斜がさらに加速するだろう。トランプ政権にとって、グローバルサウスとの関係強化は戦略的に重要であるにもかかわらず、具体的な政策は乏しい。
トランプ政権のアメリカファーストは、短期的には国内経済の強化に寄与する可能性があるが、長期的には米国の国際的影響力の低下を招く。とくに、グローバルサウス諸国が中国との関係を深めるなか、米国は地政学的な競争で後れを取る可能性がある。米国が影響力を維持するには、グローバルサウスへの経済支援や気候変動対策での積極的な関与が不可欠だが、現在の政策方針からはその兆しは見えない。今後、グローバルサウス諸国は、米中間の緊張が高まるなかで、戦略的な立ち回りを迫られるだろう。米国が孤立主義を続ける限り、中国が提供する経済的・技術的機会に魅力を感じるグローバルサウスの国は増えていくと筆者は考える。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap