日本ビルケア(株)

建物の「美」と「健康」を守る改修・保全事業のプロフェッショナルとして、商業施設からオフィスビルまで多様な現場に対応する日本ビルケア(株)。建設業界の先進的なDXツールの導入やリモートワークの推進に積極的に取り組み、業務の効率性の向上も実現させている。経済危機や自然災害、コロナ禍といった幾多の困難にも、変革の機会と捉えて柔軟に対応し、成長を遂げている。業界には人材難や市場変動という課題が横たわっているが、同社は引き続き挑戦を続ける。
建物の「美」と「健康」を追求
日本ビルケア(株)は、2001年8月に建物の改修・保全を専門とする企業として設立された。設立以来、「建物の『美』と『健康』を追求する」を合言葉に掲げ、建造物の改修・保全事業を展開してきた。
事業の柱は大きく3つに分かれている。「ランドマークセクション」では、高層・大型ビルや商業施設の外壁改修工事を手がけ、紫外線や有害物質で傷んだ外壁や躯体のコンクリート、鉄筋のダメージを診断し、将来を見据えた保全計画に基づいて施工している。「メタルメンテナンスセクション」では、金属とガラスで構成されるビル建物の汚れや劣化を修復・保全し、美しい都市景観に貢献している。「TC(To Customer)セクション」は、個人が所有する中小規模のオフィスビル、商業施設、アパートなどの外壁補修・改修を担当している。
同社はこれら専門的な技術の提供を通じて、福岡の建物の美と健康、そして資産価値を守り、魅力的な街の景観を保つ重要な役割を担っている。
デジタル化で未来を拓く
代表取締役・山田秀樹氏がとくに力を入れているのは、「デジタル化」と「ITツールの活用」、そして「リモートワークの積極的な推進」である。コロナ禍以前から、本社から遠い現場との移動時間を削減するためにウェブ会議システムを導入していた。コロナ禍では、DXの進化・普及により現場以外の業務は自宅で行うことが可能と判断し各社員に端末を配布、山田代表自身も在宅勤務の日を設定し、リモートワークに率先して取り組んだ。人数・場所に制約のないオンラインの打ち合わせでは、それまで打ち合わせることが少なかった別の部門の社員間のコミュニケーションが活発化したという。
現在はほとんどの会議をZoomやMicrosoft Teamsなどのオンラインツールで実施している。全員が1カ所に集まって会議をするのは、年に2回(事業計画発表会と新年の研修)のみという。
山田代表は多くのDXツールを試したうえで、建設業に特化した「ANDPAD」を導入し、その効果を強く実感している。建設業の事業者にとって痒いところに手が届く設計になっているとして、その実用性の高さを評価する。たとえば、現場管理者が1人で2件の現場を掛け持ちできるなど、大幅な効率化が実現した。移動時間の削減や業務効率化につながり、生産性向上が実現できている。
外部環境に揺れる市場
今期(2025年7月期)決算では売上約5億7,000万円、営業利益約5,200万円を見込む。同社も新型コロナウイルス感染症の時期には大きな困難に直面した。当初は大きな影響はないと考えていたものの、経済活動の停滞にともなって同社も受注が大幅に減少した。山田代表はその要因について、改修工事は新築と比べ金額が小さいことから、顧客は「今でなくてもいい」と判断し、延期や中止になったのでは、と振り返って分析する。
コロナ禍を同社が乗り越えられたのは、山田代表を中心に「変革へのきっかけ」と前向きに捉え、迅速な対応を進めたことによるだろう。先述したように、以前から進めていたDXツールの活用をコロナ禍でより積極的に行い、コミュニケーションの質を維持するとともに生産性を向上させた。
山田代表はリーマン・ショックでは売上高が約半減、従業員が5~6人と現在の3分の1以下に減少し倒産の可能性さえ脳裏をよぎったと言い、その後も東日本大震災や熊本地震といった経済的・自然災害による困難を経験してきたが、その度に持ち前の困難な時期において変革を行うという積極的な姿勢で、乗り越えてきた。
従来は元請業者からの下請の案件の比率が約9割と高かったが、直接受注する案件の比率を高める取り組みを続けており、現在は元請が3割を超えている。近年はコロナ禍で延期されていた回収案件が動き出したことも同社の追い風になっているという。
今後の事業環境について、山田代表は現在の建設業界のブームは今後約2年続くが、その後は再び受注競争が激化する可能性があると予測する。また、リモートワークをめぐって、いったんは対面でのコミュニケーションの良さが見直され、オフィス回帰が進んだが、山田代表は今後、ツールの進化にともなってリモートワークが長期的にさらに進むと予測しており、将来的にオフィス需要が頭打ちになるかもしれないと言い、これが建物の有効活用や同社のビジネスに影響を与える可能性も視野に入れている。
改修工事は、新築工事と比較して投資額が低いことから顧客が中止や延期を決定しやすい特性があるため、市場の変動に脆い側面がある点に留意している。
また受注はあっても、現場の人材、とくに「施工管理」を担う人材の採用がどんどん困難になっており、同社に限らず採用したくてもできない状況になっている。人材市場に候補者が非常に少なく賃金が高騰しているうえ、業界内での引き抜きや若手を中心に都市部への流出が見られ、大きな課題となっている。
人手不足の深刻さから、経験の浅い人材でも高額な給与を提示されるケースもあるという。同社はツールの活用によるDX、リモートワークの推進のほか、結果よりもプロセスを重視する新評価制度の導入など、働き方の選択肢を広げる取り組みも行い、従業員の生産性や満足度の向上に取り組んでいる。
日本ビルケアはこれまでも度重なる外部環境の変化という危機を変革の機会と捉え、乗り越えてきた。今後も福岡を中心に、その時代の新たなツールや価値観を取り入れて、建物の「美」と「健康」の維持に貢献し続けるだろう。
【茅野雅弘】
<COMPANY INFORMATION>
日本ビルケア(株)
代 表:山田秀樹
所在地:福岡市博多区神屋町4-5
KS神屋町ビル6F
設 立:2001年8月
資本金:2,000万円
TEL:092-263-0060
URL:https://n-builcare.jp