辞職の小川晶前橋市長は泉房穂前明石市長のチルドレン 同パターンで再出馬か

    男性職員とのホテル面会問題で小川晶・前橋市長が11月25日に退職願を提出し、2日後の27日の市議会で可決されて辞職。これにともない、同日提出予定の不信任案は取り下げられ、年明けに前橋市長選(1月5日告示・12日投開票)が行われることになった。

 これまで市長続投の意思表示をしてきた小川氏だが、27日の市議会後の囲み取材では、出直し市長選出馬を明言することはなく、まずはお詫びをしながら市民の声を聞きたいと強調。ただし「もう一度というような声があれば、またそれも考えたいと思っています」と再出馬の可能性は否定しなかった。

    これを聞いて私は、子育て政策推進の“師匠”に当たる泉房穂・前明石市長(現・参院議員)と同様のパターンで市長選再出馬をすることになるのではないかと思った。小川氏と泉氏には共通点がいくつもあるからだ。

 1つは、子育て政策を最重要課題と考えていること。両者は師弟関係にあると言っても過言ではない。子ども関連予算を2倍以上にして10年連続人口増を達成した泉氏は、明石市政を他の自治体に広げる「横展開」にも熱心で、全国各地で講演活動をしていた。そのなかで小川氏に会ったことを、初当選翌日(2024年2月4日)のネット番組「横田一の現場直撃」で次のように語っていた。

【横田一の現場直撃 No.253】泉房穂さん登場!!◆裏金直撃! 京都・前橋市長選(2024年2月5日)  10分36秒より

「(新しく市長になる小川氏は)前々から存じ上げています。いい方です」「(明石市政と同じ子育て政策を言っていることについて)数年前に招かれて講演をした時もおられて結構、お話もさせてもらっています。(市長選で敗れた前市長の)山本龍さんも結構近しくて、私がこの前群馬に講演に行ったら控室に2人とも順々に来られた」「小川さん自身も大変優秀な方ですし、心ある方なので、そういう意味では頑張って欲しいと思いますね」

 実際、小川市長は公約に掲げた子育て政策を進めつつあったが、すべての公約実現をはたす前に辞職となった。このことを市長最後の27日の市議会で触れたのはこのためだ。

 そのため、未達の公約実現のために市長選再出馬をすることは考えられる。その際、パワハラ発言で辞職をしても再出馬の泉氏が勝利した出直し市長選と同じパターンになる可能性もある。市民の声に押されて不祥事を乗り越えるという展開の兆しを見て取れるからだ。

 山岡淳一郎著『暴言市長奮戦記』(p.42~)には、暴言報道で辞職した泉氏が再選されるまでの経過を次のように紹介している。

 <(明石市長選を春に控えた19年1月29日)、「暴言報道」という爆弾が破裂する。神戸新聞と讀賣、毎日などの全国紙が泉の暴言を書き立てた。読売は、「買収遅れ市長、職員に暴言 兵庫・明石『火をつけてこい』」という見出しを打って、次のようなリード文を載せた。
「兵庫県明石市の泉房穂市長(55)が2017年、市の道路拡幅事業でビルの立ち退きが遅れていることについて、担当職員らを呼び、『(交渉がまとまっていないビルに)火をつけてこい。燃やしてしまえ』などと暴言を吐いていたことが分かった。市長は読売新聞の取材に発言内容を認め、『怒りにまかせて言ってしまった。市長の振る舞いとして度を越えていた』と述べた。(中略)
 2月18日、泉は後援者たちに直接、語りかける会を催し、「一生かけても償いきれない過ちを犯したのがほんとうに申し訳なく」と頭を下げた。市長選には「出られません」と辞意を再度、口にした>

 不祥事が報じられて辞職・市長選不出馬となった経過は、ホテル面会が報じられた小川市長が辞職したことと重なり合う。しかし明石市では、住民の続投署名活動が始まり、不出馬撤回につながっていく。山岡氏の本は「動き出した子育てママ」という小見出しで、こう続けていた。

<ところが、である。想像もしていなかった事態が生じる。寒風吹きすさぶ明石駅前に、幼子を育てる3人の母親たちが立ち並んだ。「明石前市長 泉房穂さんに市長選立候補を要請する署名」と表示板をぶら下げ、活動を始めた。SNSで知り合った母親たちは、最初はネット上で電子署名を集めたが、思うように数が増えず、「リアルで街頭演説をやるしかない」「時間があるので動けます」「エイエイオーッ」とメールを交わして、街頭に出たのである。

 泉本人はもちろん、選挙を支える朝比奈も、他の後援者たちもまったく寝耳に水の出来事だった。政治に縁のなかった若い母親たちが、暴言は許されないけれど、「政策を引き続き実行し、さらに市民にとって優しいまちづくりをすすめていただきたく、3月17日の市長選挙への立候補を要請します」と泉宛の要望書を読み上げる。(中略)

 市長選告示の1週間前、「泉市政の継続を求める会 総決起集会」が開かれ、子どもを抱いた母親たちが集めた署名(5000筆)をもってきた。司会に招かれて壇上に上がり、署名の束を差し出そうとしたら、泉は椅子に座ったまま泣き崩れて立ち上がれなかった。隣の後援会長の柴田に手で「行ってくれ、行ってくれ」と合図をする。柴田が立ち上がって泉の代わりに署名を受け取った。市民に背中を押された泉は出直し市長選への出馬に踏み切った>

 この出直し選で泉氏は圧勝。子育て政策をさらに加速させ、明石市長を3期12年務めるなか、明石市は子育てをしやすい街として人気が急上昇。10年連続人口増を達成、全国各地の自治体関係者や政治家の視察が相次ぐことにもなった。そして市長を辞めた泉氏は、明石市政を他の自治体にも広げる「横展開」と国政にも反映させる「縦展開」を開始。そんな泉氏を後追いするかたちで小川氏は前橋市長選で初当選、子育て政策を進めてきたともいえるのだ。

 ホテル面会報道で批判が噴出、不信任案可決が確実にまで追い込まれて辞職をした小川氏だが、泉氏と同じように市民の声に押されて再出馬するのか否か。出馬した場合、不祥事を乗り越えて再選されるのか否か。全国注目の前橋市長選の結果が注目される。

【ジャーナリスト/横田一】

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