大嶋仁氏新刊『森を見よ、そして木を 科学者ゲーテの眼力』 現代科学批判のゲーテ的視座
当社NetIB-NEWSの執筆陣の1人、大嶋仁氏(福岡大学名誉教授)が6月30日に新刊を上梓した。
『森を見よ、そして木を 科学者ゲーテの眼力』(弦書房)と銘打った同書は、ドイツを代表する文豪であり『若きウェルテルの悩み』や『ファウスト』などの作品で知られるゲーテ(1749~1832)の自然科学者としての側面にスポットをあて、ゲーテの自然科学の現代的意義を提示する。
大嶋氏によれば、ゲーテは実は文学活動以上に科学研究に時間を費やしていた。ゲーテが重視する科学的方法は、人間と自然を切り離さずに捉えることである。ゲーテは、近代科学が自然を人間から独立した「対象」や「機械」として扱おうとすることを厳しく批判した。
ゲーテの批判の対象はニュートン(1642~1727)であった。ニュートンによって確立された、自然を数式として極端に抽象化して理解する方法は、人間が身の回りにある自然をありのままに受け入れる姿勢を人間から奪い去った。主体的に自然と向き合う立場を失った人間は、高度に専門化された科学的方法の世界に閉じ込められた。主体的人間性を失った現代科学は、国家や経済といった大きな権力に奉仕することによって報酬を得る奴隷的地位におとしめられ、逆に権力の奴隷としての科学は人間をしばり、科学者は自らの研究の倫理的・社会的な意味を問わなくなった。
科学者としてのゲーテは現代科学では異端の存在であるが、倫理から逸脱する現代科学の問題点を厳しく批判する視点を提供する自然観として、少なからず、後世の哲学者・科学者から支持を得ている。
本書はゲーテの自然観を解説しながら現代科学の問題点を指摘するとともに、ゲーテの視点を継承する後世の哲学者・科学者たちを紹介する。そして、現代科学の「木を見て森を見ず」の視点を脱却し、ゲーテ的「森を見よ、そして木を」の視点を取り戻すことを提案する。
<INFORMATION>
書籍名:森を見よ、そして木を 科学者ゲーテの眼力
出版社:弦書房
発売日:2025年6月30日
本型 / ページ数:単行本(ソフトカバー) / 220ページ
弦書房ホームページ
【寺村朋輝】