2024年11月23日( 土 )

国交省運輸安全委員会の事故調査経過報告を受けて~「宝運丸」船主、日之出海運(株)清水満雄社長に独自取材

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国交省運輸安全委員会は9月20日、HP上で関空連絡橋衝突事故の調査経過報告を発表。また同日には「非常に強い台風時の走錨による事故防止対策について(中間報告)」と題した資料を併せて公表した。
事故調査の原因究明については、「なお時間を要する見込み」としつつ、現時点で判明している本事故の概要や事故調査の経過、事実情報について公表。事故防止対策では、走錨しない為の方法として、「双錨泊を基本とすること」と明記した上で、最新の気象・海象情報を入手し、風下に重要施設が存在しない、他船と十分な距離を確保できる錨地を選定する、急速に変化する風向風速に応じて走錨しないよう継続的に機関を使用することなど、措置の実施にあたってタイミングを適切にとらえることが極めて重要であるとしている。
データ・マックス社は20日の発表を受けて、関空連絡橋に衝突したタンカー「宝運丸」を所有する、日之出海運(株)(福岡市博多区)の清水満雄社長に独自取材を行った。清水社長は調査経過報告書の内容について大筋は認めつつ、「一部報道で誤った事実が伝わっている」ことに触れ、改めて真意を語った。

調査経過報告書の6.4 安全管理に関する情報 (2)B社の安全管理についての見解 ※ここでいうB社は鶴見サンマリン(株)を指す
 B社の安全管理基準には、荒天錨泊について次の通り定められている(運輸安全委員会の経過報告より抜粋)
船長は、荒天錨泊に際し特次の事項留意すること。
(1)十分な把駐力が得られる底質の錨地を選定すること。
(2)錨鎖を十分に伸出するとともに、他舷錨を投下できるように準備しておく。
(3)風力の増強と風向の変化に応じ、錨鎖を伸出するともに、他舷錨を振れ止め錨としておく。
(4)双錨泊もしくは二錨泊とし、十分な把駐力が得られるようにする。
(5) 主機を直ちに使用できるよう準備しておく。
(6) 転錨、あるいは 港外避難の処置も考慮しておく。

清水 私がまず伝えたかったことは、一部報道では(4)に触れ、「同社が鶴見サンマリン(株)の定める安全管理を守っていなかった」とされていることです。しかし、(2)の記載を見ていただくと、これは「単錨泊」のことを意味しております。
 宝運丸は単錨泊で錨泊しておりました。したがって、一部報道で出ている、安全管理を守っていなかったということには該当しません。運輸安全委員会も今回の経過報告では、「同社が安全管理を守っていなかった」とは記しておりません。

調査経過報告書の6.3 錨泊に関する情報(3)錨地の選定についての見解
清水 調査経過報告書の(3)錨地の選定についてですが、③には、「船長は次の積み荷役予定場所が阪神港堺泉北区であったので、大阪湾から離れたくない気持ちがあった」とあります。これについては、「離れたくない」のではなく、実際は、「大阪湾に錨泊せざるを得ない状況」であったというのが正しい真意です。
 9月4日に荷を積む予定が、台風21号の影響で5日にずれてしまい、(5日朝9時に積みに来るよう指示が出ていたため)沖に出ていれば積み荷に間に合わない状況でした。また、9月6日にも関空に荷物をおろし、同日に再度積みに戻るというスケジュールが組まれていたため、船員からすると数日間も連続して働くことになるというスケジュールになっておりました。台風で1日延期になってしまったが故、遅れを取り戻すためのスケジュールが組まれ、そこにいざるを得なかったというのが本当のところです。

調査経過報告書の6.3 錨泊に関する情報(4)事故当時の錨泊方法についての見解
清水 調査経過報告書の(4)事故当時の錨泊方法についてですが、①に、「船長は、2つの錨を使用すると風向が変わった際に錨などが絡み、係駐力が減少するので、左舷錨を使用した単錨泊とした」とあります。

 あの時、船長が単錨泊を選択した理由は、「一定の風向きであれば双錨泊は効果的と思われるが、台風のように風向きや風速が刻一刻と変わる状況においては相応しくない」との判断からでした。単錨泊から双錨泊にするという選択があったのではないかと言われていますが、単錨泊から双錨泊にする場合、船員を船の甲板の一番前まで派遣する必要があります。当時の状況を振り返ると、暴風による影響、さらには波や高潮の影響で、これら作業を行うには危険がともないました。海中転落により人命を損なう恐れもあったでしょう。

 関空連絡橋に衝突したことで多くの方々にご迷惑をかけることになってしまい、そのことについては大変申し訳なく思っておりますが、私は今でも、当時の船長の判断は適切だったと思っています。
昨日運輸安全委員会が公表した、「非常に強い台風時の走錨による事故防止対策について(中間報告)」には、走錨しないためには、『双錨泊を基本とする』とした文面があり、実際に双錨泊を用いて走錨を防いだ船舶の事例が紹介されております。運輸安全委員会の主たる目的は事故防止と対策なので、この例は非常に参考になると思います。

 ただし、すべての船が同じようにできるかというと、上述のような危険性がともなうことを認識しなければいけません。また、双錨泊のリスクも踏まえなければいけません。双錨泊のリスクとは、船長の申していた「風向きや風速が刻一刻と変わる状況においては相応しくないこと」のほか、「錨が絡まることで係駐力がなくなり、効きが悪くなること」です。万が一、錨が絡まってしまった場合は、ほどけない(元に戻らない)可能性があり、次の運航に支障が出るおそれがあります。動けなくなれば、サルベージ(海難救助)の対象にもなり得るでしょう。さらには、双錨泊を行うことによって、船同士の錨が絡まないよう、船同士の間隔にも気を配らなくてはなりません。

 文面だけ見れば一見簡単なようにも見えます。しかし、双錨泊には双錨泊のデメリットがあることを認識したうえで、これらのことを判断しなければなりません。実際には、これまで以上に高度な技術と難しい判断が必要とされると思います。

【長谷川 大輔】

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