2024年12月25日( 水 )

未病状態を把握する検査法を確立し、未病ケアにつなげる(前)

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 12月17日は「未病の日」。一般社団法人日本未病システム学会は、養生訓を著した貝原益軒の生誕日を記念して、この日を「未病の日」と定めている。同学会は、設立から四半世紀にわたり未病医学の研究と普及に取り組んできた。健康と病気を二分法で括る西洋医学の考え方とは異なり、健康と病気の間を連続的に変化する状態を「未病」と呼んでいるが、その意味を理解している人はまだ少ないのが現状だ。そこで、学会の吉田博理事長(東京慈恵会医科大学教授、附属柏病院副院長)に、未病の概念と、未病状態を把握する検査法について解説してもらった。

未病には、西洋医学的未病と東洋医学的未病がある

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 「未病」という言葉は、およそ2000年前の前漢から後漢の時代に、中国最古の医学書とされる「黄帝内経」に初めて登場する言葉です。ここには「聖人は既病を治すのではなく、未病を治す」と記されています。病気(病原体)は体内にありますが、症状が出ていない状態。しかし、その段階で治療しなければ早晩発症してしまう。ですから、黄帝内経には、未病の時期を捉えて治すことができる人が医療者として最高の人(聖人)であるとしているのです。別の医学書「千金要方」には、上医は未だ病まざるものの病を治す、中医は病まんとするものの病を治す、下医は既に病みたる病を治す」とあります。

 つまり、最も優れた医者は、病気を発症する前の状態(未病)を治すから上医だと言っているのです。「養生訓」で有名な貝原益軒も、未病とは半健康で、病気に進行しつつある状態であるという意味の言葉を残しています。本学会では、貝原益軒の誕生日である12月17日を「未病の日」と制定することにしました。

 この未病の考え方を現代に当てはめてみると、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの代表的な生活習慣病における危険因子が、日本人の全死因の6割を占める三大疾患(心臓病・脳卒中・がん)につながるわけですから、生活習慣病はまさしく「未病」そのものといえるでしょう。ただし、わが国の保険医療制度では、病気の診断では基準範囲や臨床判断値(病態識別値)を用いて病気かどうかを判定します。診断基準のレベルを超えると確定診断がつき治療が開始されますが、そのレベルの手前であれば疾病予備群、つまり未病者となります。簡単にいえば「病気ではないが、健康でもない状態」。病気の一歩手前の段階だといえます。

 さらに未病の概念は大きく分けて2つに分類されます。1つは、自覚症状はないが、検査で異常所見が見られる状態。これを西洋医学的未病と言います。もう1つは、自覚症状はあるが、検査で異常がない状態。これを東洋医学的未病と呼んでいます。そして、健康と病気の間のどの状態にあるかを判別する未病期については、セルフメディケーションや保健指導で改善できる状態の「未病1期(自立支援)」と、受診勧奨が必要な状態である「未病2期(治療支援)」の2段階に分けられます。

(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
一般社団法人日本未病システム学会 理事長 吉田 博 氏

1987年、防衛医科大学卒業。96~98年、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部留学。2003年、東京慈恵会医科大学内科学講座講師。07年、同大学臨床検査医学講座准教授。10年、同大学付属柏病院副院長。13年、同大学臨床検査医学講座教授。代謝栄養内科学教授兼任。
専門医:日本内科学会(認定医、総合内科専門医、指導医)、日本循環器学会(循環器専門医)、日本動脈硬化学会(動脈硬化専門医)、日本臨床検査医学会(臨床検査専門医・管理医)、日本老年医学会(老年病専門医・指導医)、日本臨床栄養学会(認定栄養指導医)、日本未病システム学会(未病医学認定医)、日本臨床薬理学会(特別指導医)。

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