2024年12月23日( 月 )

米中貿易経済戦争の本質:5Gをめぐる主導権争い~HUAWEI(華為)に対する米国の対応から見える焦り(6)

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東洋学園大学教授 朱建榮 氏

中国首脳部は21文字方針を決定

 では孟晩舟拘束事件が米中政府間の貿易経済交渉にどこまで影響し,HUAWEIないし米中関係全体の行方はどうなるのだろうか。
 ボルトン大統領補佐官は「孟氏の拘束を事前に知っていた」といったん認めたが、間もなく、「大統領とその周辺は誰も知らなかった」との説に口が揃うことになった。今から思えば、トランプ大統領本人が事前に知らされていなかったのは本当だろう。ボルトン、ポンペオら周辺は知っていたと見られる。一方、中国側トップは12月1日夜のトランプとの会談に臨む前、その一報を受けた可能性が高い。うがった見方かもしれないが、自分は次のような仮説を立てた。

A:ボルトン以下のタカ派が孟氏を拘束することによってわざと習近平主席を怒らせ、首脳会談での激論、決裂を望んでいた。
B:中国首脳部は、それは米政府内のタカ派による仕掛けと判断し、それを我慢してもトランプ大統領との合意を優先させた。


 この仮説の傍証として、その後、中国側は事件そのものに厳しく対処しながらも、米中政府間交渉、とくに貿易経済交渉に影響がないよう常に配慮したことが挙げられる。12月10日付『香港経済日報』のスクープ記事はこの関連で2つの重要な内容を披露した。

 1つは中国首脳部が「不對抗、不打冷戰、按步伐開放、國家核心利益不退讓」という漢字21文字からなる対米方針を決定したこと。 日本語に訳すと、「対抗と冷戦を回避し、順を追って開放し、国家の核心利益は譲らない」という内容である。

 もう1つはこの方針にも沿うかたちで、孟晩舟拘束事件、HUAWEI問題を慎重に米中政府間交渉から切り離すこと。切り離しを決断した理由は、「米側のタカ派に科学技術の新冷戦に引き込まれるのを回避する」という「大局」を最優先にするため、と説明された。

 今後、米側からより一層揺さぶりをかけられるのが必至だが、メンツを重んじる中国は我慢できるのだろうか。との質問に対し、自分はどこかの講演で、メンツと重大な戦略的選択が天秤にかけられたら、中国は後者を選ぶだろう、と答えた。毛沢東は1937年、「抗日統一戦線」の大義名分のもとで10年間死闘した蒋介石の国民政府軍への編入を決断した。鄧小平は1978年、昨日まで万悪の根源とされた市場経済体制の導入、改革開放に踏み切った。中国人は長期的な視野をもつので、当面我慢すべきところは我慢するのだ。2500年前から「臥薪嘗胆」の知恵がある。 

 もう1つの質問も受けた。米側は今度、A:貿易不均衡、B:国内市場開放と知産権保護、およびC:(米国に追い上げる)ハイテク技術開発の阻止との3点を中国に迫っていくが、中国側は受け入れられるか。自分の答えはこうだ。中国から見て、米当局は、当面の利益・成果を最重視するトランプ大統領と、中国の追い上げそのものを潰そうとするエスタブリッシュメント層に分けられる。よってトランプ本人にAとBを譲り、それと引き換えにCをエスタブリッシュメントから守るとの計算ではないか。先にAとBをトランプ本人に譲ったうえで、それでもC(一定の妥協はあり得る)を追い詰めるならAとBの譲歩もやめるよと答える。ではトランプは何を選ぶか。

 米国に譲歩しすぎとの中国国内の不満に対し、どうも最近、「外圧を利用して国内改革を促進しようじゃないか」との説明が行われているようだ。ちなみに、「外圧利用」の中国語訳、ご存知ですか。タネを明かそう。「倒逼」である。

 もちろん、孟晩舟氏が絶対米国に引き渡されないよう、米中政府間交渉と並行して次々と手を打つ。どんな手?と聞かれたら、「ご存知の通り」とここではこれしか答えられない。
中国首脳部はすでに決めた21文字方針に従い、米当局間との90日間以内の妥結を目指していくだろう。中国人民銀行の元副頭取朱民は、「90日以内に何らかのかたちで合意に達し、さらに6カ月から12カ月かけて決着にこぎつける」と語った。

(つづく)

<プロフィール>
朱建榮(しゅ・けんえい)

1957年8月生まれ。中華人民共和国出身。81年華東師範大学卒業後、86年に来日。学習院大学で博士号を取得。東洋女子短期大学助教授などを経て96年から東洋学園大学教授。

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