2019年の注目経営者、安田隆夫パンパシHDの創業会長兼最高顧問~食を軸にした「環太平洋の安売り王」になる!(後)
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集客の目玉は「焼き芋」
安田氏は「DON DON DONKI(ドンドンドンキ)」で何を目指しているのか。
米国ビジネスモデルコンサルタントのH&Hコンサルティング(神戸市)代表、清水ひろゆき氏は『商業界』ONLINE(18年9月13日付)に「ドンドンドンキ」についてのレポートを寄稿した。題して「新業態『DON DON DONKI』の秘密 シンガポールで見つけた『ドンキホーテHDの成長戦略』」。驚きの光景から書き出している。
〈DON DON DONKIがあるのは、シンガポールの目抜き通りオーチャードに面する高感度のファッション商業施設「オーチャドセントラル」。この地下2階に地下鉄にアクセスしたコンコースがあるのですが、訪店時、そこでは販売開始前なのに自家製の焼き芋を買おうとするお客の行列ができていました。
ドンキ指定農園で栽培したサツマ芋(茨城県産)を使った自家製の焼き芋。それをDON DON DONKIでは、1つ2ドル80セント(シンガポールドル80円換算で230円くらい)で販売していますが、これは日系百貨店などの半分の価格です。
並んでいる20代の若者に焼き芋を買いにきた理由を聞くと「インスタとかFBでDON DON DONKI旨い!という投稿を見て来ました!日本の焼き芋は甘くておいしいと噂になっているので楽しみです!」と答えてくれたのです。〉
安田氏は無名のドンキの名をシンガポールに轟かせるため「焼き芋」で参入した。実に、大胆でユニークな発想だ。日本の流通人をして「革命的」と言わしめたことも頷ける。
食を中心としたビジネスモデルの構築
「DON DON DONKI」を出店した狙いは何か。清水氏は、非食品中心から食品を中心としたビジネスモデルを構築することにある、と分析している。
〈同社(ドンキ)は、アメリカの日系食品小売企業をグループ傘下にし、シンガポールとタイで店舗や商業施設を展開。以下のような戦術を進めているのです。
- アメリカ日系小売企業で、地元アメリカ人が支持する日本ブランドの売れ筋や食べ方などの用途を検証する。
- アセアンならびに世界の富裕層が集まるシンガポールで新業態DON DON DONKIを通じ、日本発の食のライフスタイルを訴求する。
このように同社が日本のライフスタイルを提案する理由は、アセアンや世界の人々が焼き魚やしゃぶしゃぶ、おでん、丼、弁当などの日常の食を通して日本のライフスタイルに興味を抱いてくれれば、本物の食を日本で体験したい気持ちになり、来日し、ドン・キホーテに足を伸ばすと考えているからでしょう。
(中略)
日本とアセアン両国を行き来する顧客を増やすビジネスモデルを再構築しようと考えているといえるでしょう〉
(前出「新業態『DON DON DONKI』の秘密」より)
ただし、清水氏のレポートは、ドンキがユニファミマの傘下入りと、社名をパンパシHDに変更すると発表した以前に書かれたものだ。事態は一気に進んだ。
ハワイの日系スーパーを買収
それでは、ドンキが社名を「環太平洋」を意味するパンパシHDに変更した狙いは何か。
ドンキが海外事業を手がけたのは、2006年2月に遡る。ダイエーのハワイの子会社の株式を譲り受け、現地法人ドン・キホーテUSAを設立し、オアフ島内の4店舗を取得したのが始まりだ。13年9月、カルフォルニアやハワイに会員制スーパー11店舗を展開している日系スーパーのマイカルコーポレーションを買収した。
17年6月には、ハワイ・オアフ島で「タイムズ・スーパーマーケット」を24店舗展開するQUI社を買収した。QUI社の16年9月期の売上高は490億円で、ドンキのハワイのスーパー事業の約2倍の規模をもつ。
そして17年12月、シンガポールで旗艦店「DON DON DONKI(ドンドンドンキ)」をオープンした。アジア初の海外店だ。18年6月に2号店、19年1月に3号店を出店。近く、タイのバンコクにも「DON DON DONKI」を核店舗としたドンキモールをオープンさせる予定だ。
環太平洋の「食の安売り王」の野望
ドンキは日本では、迷路のような店内を回遊してもらい、天井まで届くような巨大商品陳列やカラフルなPOPに出会うことで、雑貨を中心とした非食品を購入してもらうビジネスモデルで急成長した。買収した総合スーパーの長崎屋は、ドンキ流の店舗運営の「MEGA ドン・キホーテ」に転換させて成功した。
長崎屋を買収して以来、食品を扱うノウハウを蓄積。海外事業は食品スーパーを買収してきた。満を持して投入したのが「DON DON DONKI」。「日本食を知ってもらう」をテーマに総菜の販売に力を入れる。
ドンキとユニーの売上高を合算すると1兆6,543億円。国内4位の小売企業になる。深夜営業という小売業のすき間からスタートしたドンキは、大企業にのし上がった。
ドンキは「2020店までに500店舗体制」を掲げる。それを達成するために、環太平洋地域に「驚安の殿堂」の店舗網を築く。
ドンキは、シンガポールや米国で39店舗展開しているものの、海外の知見は乏しい。中間所得層が伸びる中国や東南アジアなど海外展開のノウハウは商社に分がある。ユニファミマの親会社である伊藤忠の海外ネットワークを生かしながら、海外事業拡大を見込む。
名実ともに環太平洋企業になるために、伊藤忠と組んで、さらなるM&Aに突き進むのではないか。安田氏がドンキに復帰した最大の狙いだろう。「ドンキが伊藤忠に食い込んだ」と評されている。
再登板する安田氏は、食を軸にした「環太平洋の安売り王」になる。それが社名変更に込められた野望である。
(了)
【森村 和男】
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