2024年11月05日( 火 )

【BIS論壇No.288】「米中貿易戦争」

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 NetIB‐Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。今回は2019年2月2日付の記事を紹介。

 1月30~31日、ワシントンで開催の閣僚級米中貿易交渉は31日終了。中国が大豆を中心に農産物の対米輸入を増やすことなどで協議を終え、中国の市場開放など一定の進展はあったようだ。技術移転や核心の「中国製造2015」などの問題では溝が残っているようである。中国関係者の話によると、中国は貿易問題では一部譲歩するとしても中国の技術国家戦略など国家の競争力を左右する分野では譲歩しない方針だとのことである。

 3月1日に交渉期限を迎える米中貿易交渉は2月末までにトランプ大統領、習近平国家主席の首脳会談で決着をつけることになった。そのため2月中に米朝首脳会談がベトナム中部のダナンで開催される予定で、その前後の米中首脳会談での貿易首脳会談が予想されている。

 早速2月2日に、中国国有企業食糧大手の中糧集団が米国産大豆100万トンを新たに購入したとのことだ。(朝日新聞 2月3日)。しかし米中貿易戦争は技術を含めた両国の覇権争いの様相を呈しており、解決には、なお時間がかかると見られる。

 中国の「一帯一路」(BRI)に対抗する日米豪印の「インド太平洋構想」での中国とのアジア・ユーラシアでの主導権争いも激しくなっている。安倍首相は昨年10月北京での首脳会談でBRIに関し第三国でのインフラ日中協力を打ち出し、JBIC(日本国際協力銀行)と中国銀行との第三国協調融資などで協力するとのことだが、第三国でのインフラ建設協力も含めて具体化していないのが実情のようだ。逆に米国トランプ政権は中国に対抗する為、インド太平洋地域で軍事支援や600億ドルのインフラ支援策など打ち出し、中国への対抗意識をあらわにしている。

 日本では政財界、メディアとも一帯一路での中国の「債務の罠」論など批判的な言動が目立ち、中国との第三国での協調は容易でないと思われる。最近出版された宮崎正弘氏の『日本が危ない~一帯一路の罠』(ハート出版)は「一帯一路は末路だ。世界は逃げ出している。なぜ日本は見抜けない。」「中国のトンデモ事業の実態!」など極端に批判的言動が目立つ。さらに近来右翼的言動が目立つ『選択』2月号では巻頭インタビューに未来学者のジョージ・フリードマンの「中国、ロシアの“炎上”は遠くない」との予測記事を掲載している。

 一方、エコノミスト1月1日、8日号はロバート・J・ゴードン教授の「米国高成長の終焉~発明の“革命性”は衰えた。世界の牽引役は中国へ移行。米国が超大国に上り詰めた時代の高成長は再来しない」との説を紹介している。一方、数々の予言を的中させたジム・ロジャースは『お金の流れで読む日本と世界の未来』(PHP新書)で「貿易戦争は愚の骨頂」「歴史上三たび繁栄を極めたのは中国だけ」「中国に投資するなら環境ビジネス、インフラ、ヘルス産業」、“一帯一路”構想は中国経済を大きく規定するだろう」などアジア情報のメッカ・シンガポールに移住し、2人の娘にも中国語を習得させている世界的投資家は中国の将来性と「一帯一路」を評価している。国際アジア共同体学会会長、一帯一路日本研究センターの進藤栄一・筑波大名誉教授ともども筆者はゴードン教授やジム・ロジャース氏同様、一帯一路の将来性を評価しているが、結果は5年以内にはっきりするだろう。

<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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