2024年12月23日( 月 )

米中貿易戦争の行方 中国に依存するアメリカの軍需産業(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

あくまで対中強硬策のトランプ政権

 トランプ大統領もそうした現状認識であり、大統領の補佐官も対中強硬派が多いのだが、そうした考え方の持ち主が影響力を発揮しているようだ。「戦略的圧力政策」の推進派であり、ボルトン補佐官やナバロ補佐官はその筆頭格と目される。キッシンジャー元国務長官やポールソン元財務長官らが、「米中和解」や「米中共同」を主張すればするほど、その反対の政策を推し進めようとしている。

 18年11月に3度目の来日をはたしたアメリカのペンス副大統領も、トランプ大統領の意向を代弁していた。「インド太平洋戦略」で安倍首相と意気投合を演出したペンス副大統領であるが、中国の進める「一帯一路」計画の向こうを張って、アメリカ主導のアジア太平洋地域向けの700億ドル(約8兆円)のインフラ整備基金の創設をアピール。とはいえ、トランプ大統領の強かな交渉姿勢を背負っており、新たな基金の原資の一部はしっかり日本から引き出すことに成功した。

 その論理は明快であった。曰く「アメリカは日本を外の脅威から守っているのだから、アメリカから防衛装備品を購入したり、中国と対抗する途上国援助の基金をアメリカに提供するのは当然」という働きかけが功を奏した模様だ。ペンス副大統領は「日本からの資金提供に感謝する」と明言しているが、安倍首相はその点に関しては国民への詳しい説明を行おうとしていない。これでは、あまりにもトランプ大統領の言いなりではないか。

 何しろ、アメリカ側は「アメリカのいう通りにしなければ、日本からの自動車や部品に25%の関税を上乗せするぞ」と恫喝。とても最大の同盟国に対する物言いとは思えない。経済と安全保障をリンクさせるアメリカの手法は、どこまで通用するのだろうか。トランプ大統領は決まり文句のように「アメリカ経済は順調だ。株式市場も活況を呈しており、雇用も拡大中だ。誰のおかげだ?」と自信満々の様子だ。

アメリカは中国に勝てる見込みがないことを自覚している?

 しかし、国民の半分は健康保険にも加入できないほど貧富の格差は拡大している。大学生の数より刑務所で服役中の人数が多いのもアメリカだ。銃社会もさることながら、マリファナも合法化してしまった。もともと移民で成り立った国でありながら、「移民や難民は犯罪予備軍だ。メキシコとの国境には壁をつくる。軍隊を動員してアメリカには入れない」とトランプ大統領は豪語する。中国における宗教や少数民族の弾圧を厳しく非難するアメリカだが、自国に蔓延する人種差別には頬かむりをしても平気だ。

 今こそ、日本はアメリカとも中国とも正々堂々と渡り合う気概をもち、具体的な共同プロジェクトの推進にこそ知恵を絞るべきであろう。

 関税上乗せや軍事力のエスカレートを続けるだけでは、前途は厳しい。アメリカのトランプ政権による対中対決姿勢は、はたして功を奏することになるのだろうか。アメリカの政府機関や民間のシンクタンクが懸念するように、中国はすでにアメリカの弱点を熟知し、中国優位の状況を生み出しているのではないか。アメリカは日本からの資金を頼みに新たな700億ドルの途上国向けインフラ整備基金を創設すると発表した。しかし、この金額は中国が18年10月の1カ月にアフリカ諸国に投資した金額と同額でしかない。

 この圧倒的な資金額の違いを目の当たりにして、アメリカによる形勢逆転はあり得るのだろうか。トランプ大統領の悩みは深い。ニューヨークの不動産の世界でマフィアやヤクザと渡り合ってきただけに、修羅場には慣れているだろう。それが中国や国際社会との関係がぎくしゃくしても、自らの姿勢を変えない自信の源になっているのであろうか。

 表向きは「中国を黙らせる。自分が中国と交渉して、中国製造2025もストップさせた」と、過去形で豪語しているが、実際は中国の方がはるかに上手である。中国は中国製造2025の表記を2030に変えただけでトランプ大統領を手玉に取っている。このままでは、アメリカは中国との貿易戦争のみならず、軍事戦争においても勝てる見込みはないと言わざるを得ない。日本はその現実を冷静に分析しておかねばなるまい。

 そのことをアメリカ政府も認識はしているようだ。なぜなら、18年10月、政府機関の横断的調査作業チームが報告書をまとめ、アメリカと中国の製造業とサプライチェーンの実力を比較し、軍事力の基盤を形成する産業分野でアメリカは中国にかつてないほど依存していることが明らかにされたのである。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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