トランプ政権、追加25%の自動車関税 日本経済への影響と対日姿勢の本音

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国際政治学者 和田大樹

アメリカの道路 イメージ    トランプ政権が2025年4月3日から輸入自動車に対して25%の追加関税を課す方針を打ち出したことは、日本の自動車メーカーと日本経済に深刻な影響をおよぼすと同時に、トランプ政権の対日姿勢の本音を浮き彫りにする。

 現在の関税率はわずか2.5%であるが、これが一気に10倍以上に引き上げられる今回の措置は、米国製造業の復活を最優先とするトランプの強い意図を反映している。この政策は、米国の経済ナショナリズムを体現している。ここでは、この関税がもたらす具体的な影響と、その背後にあるトランプ政権の対日姿勢の本質について詳しく論じる。

 まず、日本の自動車メーカーへの影響は壊滅的と言って過言ではない。日本は米国への輸出品目のなかで自動車が最大のシェアを占めており、24年の対米輸出額は6兆円を超える規模に達している。この莫大(ばくだい)な市場において、25%の追加関税が課されれば、日本車の価格競争力は大幅に低下し、米国市場でのシェア縮小が避けられない状況に陥る。

 トヨタ、ホンダ、日産といった大手自動車メーカーは、米国に生産拠点を構え、現地生産比率を高めてきたものの、部品の輸入や一部の高級車種、ニッチなモデルについては依然として日本からの輸出に依存している。そのため、関税によるコスト増は不可避であり、企業経営に深刻な打撃を与える。また、大手メーカーだけでなく、サプライチェーンに連なる中小の部品メーカーも連鎖的な影響を受ける。部品供給のコスト増や受注減少により、国内生産の縮小や雇用の喪失が現実的なリスクとして浮上する。

 経済産業省の試算によれば、この関税が日本経済全体に与える影響はGDPを0.2~0.3%程度押し下げる可能性があり、自動車産業が日本の経済基盤を支える重要な柱であることを考えると、その波及効果は決して軽視できない。

 一方で、トランプ政権の対日姿勢の本音は、「公平な貿易」を掲げる名目のもとで進められる徹底した米国優先主義にある。トランプ大統領は記者会見で「我々の友人である日本が、長年にわたって米国を経済的に痛めつけてきた」と発言し、日本車の輸出超過を「不均衡な貿易」の象徴として繰り返し批判している。この発言の裏には、米国での工場建設や雇用創出を日本企業に強要する意図が明確に存在する。

 これは、トランプ大統領が掲げる経済ナショナリズムの一環であり、関税を武器に同盟国すらも経済的な従属関係に引き込む戦略だ。実際、韓国のヒョンデ(現代自動車)が米国での大規模な投資を表明した例を見ても、関税政策が企業行動を強制する圧力として機能していることは明らかだろう。しかし、日本の大手自動車メーカーはすでに米国での現地生産比率を70~80%まで高めており、これ以上の投資を求めるのは過剰な要求ともいえる。それでもトランプ政権がこの方針を押し進める理由は、同盟関係を超越した経済的優位性の確保にある。日本の技術力や市場競争力を削ぎ、米国企業に有利な環境を整えることが最終目標であり、対日姿勢の本音は妥協を許さない強硬なものだと言わざるを得ない。

 さらに、この関税政策は米国の消費者にも深刻な影響をおよぼす矛盾を内包している。日本車の価格が上昇すれば、消費者の選択肢が狭まり、自動車市場全体の競争力が低下する可能性が高い。とくに、中低所得層にとって手頃な価格帯の日本車は重要な存在であり、値上げは家計に直接的な負担をもたらす。それでもトランプがこの政策を強行する背景には、支持基盤であるブルーカラー労働者層へのアピールと、貿易赤字解消への強い執念がある。

 24年の貿易統計によれば、米国の対日貿易赤字は年間約700億ドルに上り、その大部分を自動車関連が占めている。トランプはこの数字を政治的な成果として利用し、「アメリカ・ファースト」を実現する象徴として関税を位置づけているのだ。日本への配慮は二の次であり、中国に対する経済制裁と同様に、日本との間にも経済的対立を辞さない姿勢が透けて見える。

 結論として、25%の追加関税は日本の自動車産業と経済に深刻な打撃を与える。トランプ政権の対日姿勢は、同盟関係を超えた経済的優位性の追求にあり、日本に対してさらなる妥協や譲歩を迫る本音が露呈している。

 日本政府と企業は、関税回避のための交渉や米国での現地投資の強化といった対策を模索せざるを得ないが、その負担は極めて重い。米国市場への依存度を減らしつつ、新興国市場の開拓や電動化・自動運転技術への投資を加速させるなど、長期的視野での戦略転換も求められるだろう。しかし、短期的にはトランプ政権の強硬姿勢に翻弄(ほんろう)される状況が続き、日本経済の先行きに暗い影を落とすことは避けられないだろう。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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