2024年11月22日( 金 )

米中貿易戦争の行方 中国に依存するアメリカの軍需産業(5)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

米政府機関報告書が指摘するアメリカの弱点とは?

 この報告書は衝撃的といえる内容であり、アメリカの軍需産業が直面する300を超える弱点が列挙されている。そのなかでも特筆すべきものは3点に集約できるだろう。これらの弱点を克服するのは容易ではないが、不可能ではないはずだ。日本が協力できる分野でもある。以下、そのアメリカの弱点を紹介してみたい。

 第1に指摘されているのが、アメリカの製造拠点が海外にアウトソーシングされたために、ボーイングやレイシオンなど主要軍需産業がいずれも部品の安定供給に弱点を抱えていること。2000年以降、この傾向は悪化の一途をたどっており、アメリカ国内の製造基盤は70%以上も減少。集積回路に至っては90%がアジアで製造されており、そのうち半分以上が中国製である。アメリカ国内の製造メーカーはほぼ壊滅状態となっている。その裏には中国企業によるアメリカ企業の買収攻勢があった。ハイテク関連企業の買収に中国はこの10年だけで400億ドルを投入してきた。17年の実績は53億ドルである。

 第2に、部品の製造に欠かせない材料の大半を海外に依存しており、とくにレアアースなどは100%を中国からの輸入に頼っていること。これでは、中国から供給をストップされれば、アメリカの軍需産業は即死状態になりかねない。軍需産業に限らず、民間の通信機器メーカーもお手上げ状態になる。

 また、1981年、アメリカは国内でアルミニウムを製造しており、世界最大の生産量を誇っていた。世界市場の30%以上を占めていたのだが、2016年になると、わずか3.5%にまで急落。アメリカのアルミ生産量はサウジアラビアより少ないのが現状である。

 一事が万事といえよう。国家の安全保障を担保する国防や製造業の根幹の材料確保においてアメリカは「戦わずして負けている」といっても過言ではないだろう。

 第3が、製造や研究開発の分野に欠かせない熟練工やエンジニアが極端に不足しており、外国人に依存する度合いが高まっていること。電子部品から原子力・核関連、そして宇宙分野に至るまで、研究、製造、管理に携われる専門家や技術者が圧倒的に足らないのが今のアメリカの実情である。

 最近のデータによれば、アメリカの大学や大学院で電子工学や石油化学関連を学ぶ学生の81%は外国人である。また、コンピュータ・サイエンスを専攻する学生の79%は外国人となっている。その大半はアジアからの留学生であり、その大部分は中国人にほかならない。

日本は独自のスタンスで両大国に対峙すべき

 トランプ大統領もナバロ補佐官もことあるごとに、「中国による不公正貿易」を声高に非難する。しかし、アメリカ国内の産業の空洞化や教育現場の荒廃ぶりを放置してきた責任はアメリカ自身にあるはずだ。そのことを棚に上げ、中国や日本を非難し、「いうことを聞かなければ、高関税で締め上げる」というのでは、自ら墓穴を掘ることになるだろう。

 かつて日本も中国からレアアースの輸出を止められ、産業界がパニックに陥ったことがある。トランプ大統領が貿易の不均衡を是正しようとしていることは理解できる。とはいえ、「自由貿易は誤りだ。中国も日本もアメリカ市場で潤ってきたのだから、これからはアメリカでアメリカ人を雇ってモノを売れ。でなければ、アメリカ製のミサイルや戦闘機をもっと買え」というのでは、多国間貿易や相互依存の信頼関係は崩壊する。

 その行きつく先は「新冷戦」か「第三次世界大戦」かもしれない。トランプ大統領は「どんどん戦争をしよう。アメリカは勝ち続ける」と強気の姿勢を見せているが、国防総省もアメリカ政府も議会も懐疑的である。日本は中国とアメリカの果てしない関税戦争や軍拡競争に振り回されず、独自の日米中共同プロジェクトを推進する方向に舵を切るべきではなかろうか。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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