「バカなフリをしないと、中国では商売できない」 アダルの事例から見るチャイナリスク(後)
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建物に関してはイライラすることばかり
現在、武野会長を最も悩ましているのは、友利家具工場をめぐるさまざまな問題だ。改装による工場完成の遅れを始め、改装内容に対する不満などが積もりに積もっている。予定では昨年7月に工場の工事は完了しているはずだった。作業フロアの工事は完了し、工場自体はすでに稼働しているが、会長室をはじめ、社長室などのオフィス部分、社員寮の部屋などはいまだ改装中だ(今年1月時点)。幹部たちは、工場フロア隅の仮のオフィスで仕事をしている。寮に入れない社員は、会社が近くに借りたアパートから通っている。
工場の図面、レイアウトの原案は、武野会長が作成。それを基に工事が進められる。日本の場合には設計事務所において図面設計が完成し了承されれば請負するゼネコンが施工の全責任を負う。
ところが中国の場合、設計・建築・内装のそれぞれの部署がバラバラ。たとえば、建築のトラブルが発生したので建築業者に改善のクレームを伝えると、「オー、私の責任ではないよ!!設計通りにしました。私は悪くない」と言い訳に終始する。そこで、設計事務所に責任を追及しにいくと「オー、私のところには非はないよう」と過ちを認めない。これが積み重なって工期が大幅に遅れる。結果、工事予算を大幅に上回る費用が出てしまう。こういったチャイナリスクを覚悟しなければならない。
整備した緑地を撤去
友利家具工場の建設に際しては、現地の役人から「現場監督は誰にするの?」と尋ねられた。「Aです」と答えると、「ダメダメ。Bにしなさい」と注文がついた。気に入らない現場監督は露骨に外しにかかる。役人とBの間に何があったのかは、想像に難くない。政府から、工場には「敷地内に緑地を設ける」という注文がついていた。注文通りきれいな緑地を整備したが、すぐに緑地は撤去された。武野会長が理由を尋ねると、「役所の検査が終わったので、緑地はもういらない」という返事が返ってきた。工場の照明にはすべてLEDを採用している。当局の指導により、LEDが義務づけられているためだが、中国製のLEDのため、半年で切れる場合もある。
改装作業中のフロアに足を踏み入れると、ダウンジャケットにジーパン姿の作業員が見えた。フロアには、至るところにタバコの吸い殻が落ちている。レンガ積みの壁の断面を見ると、レンガの間にまばらにセメントが塗り込まれていた。エレベーター内の壁はキズや汚れだらけ。資材搬入の際、付いたものと思われる。
「なんでゴミ拾い?」と社員一同から笑われる
武野会長が工場に行くと、毎回やることがある。工場内のゴミ拾いだ。中国に工場ができたころからの習慣で、10数年間続けている。ただ、中国人社員はゴミに対して無頓着で、至るところにゴミが落ちている。
あるとき、いつものように武野会長がゴミを拾っていると、その目の前にゴミが落ちた。たまりかねて、武野会長は「誰だー!」と怒鳴った。周りにいた社員たちに目をやると、萎縮するどころか、ヘラヘラ笑っている。1人の社員が進み出て、「会長、なんでゴミ拾いなんかやっているんですか?ゴミ拾いする人間を雇えば良いじゃないですか」と言った。日本人にとって、ゴミ拾いや整理整頓は美徳だが、中国人にとっては、自分以外の誰かがやる雑用。そういう感覚の違いがある。
バカなフリをしないと中国では商売できない
「私みたいなバカでないと、中国で商売はできませんよ」―。武野会長がしばしば口にする言葉だ。これをただの自嘲の言葉と受け取ると、真意を見誤る。「中国でのビジネスはリスクの海に突っ込んでいくようなもの。金だけむしり取られて、逃げ帰った日本企業も少なくない。中国政府の人間からも「あなたの会社は中国にはいらない」とはっきり言われたし、周りからは無謀な挑戦に見えるだろう。ただ、私が考えるビジネスとは、実はそういうものだ。リスクが大きいほど、チャンスがある。商売とは覚悟することだ」。
この言葉には、そういう意味合いが含まれていると感じられる。覚悟を決めることは、どんな経営者にとっても生やさしいことではない。覚悟のない者にとっては、リスクはリスクでしかなく、チャンスに変わることはないからだ。
(了)
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