2024年11月14日( 木 )

福岡を活性化させた傑物伝 アパマングループ代表大村浩次氏(8)

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ナスダック・ジャパンに上場

大村 浩次 氏

 東京に活動拠点をつくり、アパマンショップネットワークを設立して間もないころ、フランチャイズ(FC)店舗のネットワークを全国に広げながら、上場に向けて準備を始めた。当時のビジネスモデルが賛同され、ソフトバンク・インベストメント社、ソフトバンク・インターネットテクノロジー・ファンド社、ゼンリンプリンテックス社、九州自動車リース社、九州キャピタル社などから出資を受けた。

 上場を意識したのは、会社設立当時、データ・マックスの児玉社長が当時の(株)シノハラ建築システム(現シノケングループ)の篠原社長、大村社長、他経営者を集め、「福岡の企業が上場すると、福岡も活気が出る」と力説したからだという。それを聞いた大村社長はその通りだと感じたそうだ。ちなみに、集まった会社すべてが後に上場したようだ。

 福岡から日本全国にビジネスを広げて世界に通用する企業をつくることで、少しでも次の時代の若い経営者の参考になればと思っていた。東京で仕事をしていても、福岡が大好きだという大村社長の思いは変わらない。

上場してからも初心を忘れない

 上場してからは、アパマンショップのブランドが多くの人に知られるようになり、新しいビジネスを始めたときも世の中に早く広まるようになった。また、新しいプロジェクトを立ちあげて組織をつくるときにも、人を集めやすくなった。しかし上場して会社をとりまく環境が変わっても、不動産業界をよくしたいというビジョンがゆらぐことはなかった。

 大村社長がすばらしい経営者と感じるところは、社会の役に立ってお客さまによろこんでもらえる事業をしたいという思いを、会社をとりまく環境や時代が変わっても変わることなく持ち続けているところだ。ITを使って不動産業界のサービスや業務の効率をよくすることへの取りくみは、時代のニーズの移りかわりとともにかたちを変えているが、「会社は社会のためにあるもの」という根底に流れる姿勢は変わらない。

 この変わることのない姿勢は、不動産業界をよくしたいという強い責任感からうまれている。ビジョンの実現に向けて、あたらしい事業をつくり全国のFCネットワークを広げていくときには、持ち前のバイタリティとひたむきな気持ちで試行錯誤をかさね、取りくんできたのではないだろうか。

使う人の心にひびくサービスをつくる

 上場した当時は不動産店舗むけのITシステムの販売(現在の言葉でいうと、クラウドの提供)が事業のコアになっていたが、全国にFC店舗のネットワークをつくるとともに直営店も立ち上げて、賃貸仲介業と賃貸管理業を広げた。そして全国の不動産店舗をネットワークでつないで物件情報を共有できる仕組みを日々改良して業務を効率化しながら、どのようなサービスがあればユーザーが部屋を借りやすくオーナーが不動産を活用できるかを考えてかたちにしていった。

 たとえば、部屋を探すときに当時よく使われていた賃貸情報誌に注目した。アパマンショップの広告・出版業務をするために2000年に設立した(株)エイ・エス出版では、オーナーや賃貸管理会社とともに賃貸物件の情報を共有できる「情報誌発刊システム」を使って、地域ごとの賃貸情報誌を販売した。このシステムを使うことで、物件情報を集めてからのせるまでの時間を今までより短くして、新しい物件情報をすぐに雑誌にのせることができるようになった。そして、効率よく情報誌にのせられるようになることで、賃貸物件の紹介が契約に結びつきやすい仕組みをつくった。

 また、これからはインターネットで部屋をさがす時代がくることを予想していたため、部屋を借りる人にもパソコンの賃貸検索を身近に感じてもらえるきっかけをつくりたいと考えた。そして、電車の駅に賃貸物件を無料で検索できるパソコンをおいたという。思いついたことをすぐに実行する、並はずれた行動力の持ち主ならではのエピソードだ。

 家賃の集金や入退去の手続きなど、管理会社が物件のあるところまで足を運ぶ賃貸管理業務が多かったため、それまで管理会社があつかう物件は車で行けるところに限られていた。そのため、インターネットを使って現地に行かずにパソコンから物件を管理できるシステムをつくることで、場所を限定することなく広い範囲の物件を管理できるようになった。

 不動産業界でITを使いこなすリーディングカンパニーとして、他社にないサービスをAPAMANグループがつくりだしてきたのは、ユーザーからのヒアリングや現場の声や新しい他業界のサービスを使った体験などから、世の中のサービスがどのような方向に動いているかを大村社長が自分の目を使って見極めてきたことが大きいのではないだろうか。世の中でいま何が必要とされているのか、社会のニーズにマッチしているサービスはどのような仕組みなのかをみて、自社のサービスの改良をかさねている。ITを使ったシステムの便利さにとどまらず、ユーザーが何を必要としているかを知りニーズをかたちにすることで、さまざまな立場の人の心にひびくサービスをつくっている。

(つづく)
【取材・文・構成/石井 ゆかり】

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