2024年12月22日( 日 )

福岡を活性化させた傑物伝 アパマングループ代表大村浩次氏(12)

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リーマン・ショックをこえて

 リーマン・ショックで資産の価値が大きく変動することを経験したことから、安定した事業の必要性を重視し、不動産に投資するプリンシパル・インベストメント(PI)事業やファンド事業から撤退し、不動産ネットワーク事業、プロパティ・マネジメント事業などに経営資源を集中することにした。

部屋を借りることから、まわりのサービスを広げる

大村 浩次 氏

 部屋を借りてから退去するまで、人は多くのサービスを受けている。たとえば、部屋を借りている人が銀行に振り込んだ家賃をオーナーに届けるまでの銀行送金などの金融業、火災保険などの保険業、部屋を借りるときの保証人の代行業などだ。不動産業にとどまらず、ほかの業界のサービスがあってはじめて入居者が安心して住むことができる仕組みをつくることができる。

 このような部屋を借りることに関わる金融業や保険業などのサービスは、ITを活用することでほかの業界からでも新しく参入しやすいことに着目した。部屋を借りるお客さまや不動産オーナーのニーズにあうサービスが提供できるように、より一層、IT・システム要員を増やし、またわかりやすく、楽しく情報を提供するために、プロモーションやデザインの要員も大幅に増員した。今でこそデザインやクリエイティブは重要視されているが、当時ITを含むこれらの事業に大きく軸足を移すことは珍しかっただろう。また、他社との提携や他業界の事業の一部を内製化することにも力を入れた。

 アパマンショップのお店に行くだけで受けられる便利なサービスは、お客さまにとって便利で満足してもらえるサービスを考えて、賃貸不動産業にとどまらず、ほかの業界までビジネスを広げることでつくることができたものだ。これらのサービスができるまでは、部屋を借りる人が自分で探して申込みをしていたため、手間と時間がかかっていた。しかし、近年はインターネットを通して情報が早く伝わるため、何ごともスピード感が求められる時代。人々は忙しいため、毎日の時間がかけがえなく感じられる。お店にいくだけで、住むことに必要なさまざまなサービスを受けられる仕組みは、「手間をかけずにすぐできる」ことが求められる時代のニーズをとらえて離さない。

日本の国力を取りもどしたい

 これまでの不動産業界をよくしたいという思いで事業をすすめてきたが、リーマン・ショックが起こってから、日本の国益に貢献したいという思いが強くなったという。大村社長が20代のころの日本の経済競争力は世界でも群を抜いており、日本人というだけで世界で賞賛される時代だった。しかしバブル崩壊後は、失われた20年となったことは周知の事実である。このような経験から、少しでも日本の経済力や国益が高まることに時間やエネルギーの一部を使いたいと考えていたようだ。

 また、リーマン・ショックで最も影響を受けた米国が、シリコンバレーを中心とする西海岸の企業のイノベーションによって、世界経済をけん引していることにも影響を受けたという。日本でも「日本再興戦略 2016」でベンチャーやイノベーションの重要性が書かれていることも重視している。バブル崩壊、リーマン・ショックを経験し、またイノベーションが国の経済力に大きく影響していることなど、総合的に感じ、世界のなかでの日本の立場をよくするためにできることはないかと考えるようになったという。

 そして、日本の国力を上げるために何かできないだろうかと考えながら、国内や海外、各地に足を運び、さまざまなビジネスの視察をかさねた。そして、国としての強さをもつ国では、勢いのある多くのスタートアップ企業が時代のニーズにあう新しいサービスを生み出して、経済を盛り上げていることに目をつけた。それが日本でも世界に向けてビジネスを展開するスタートアップ企業を支援して、イノベーションのきっかけをつくるコーワキングスペースのfabbit事業を立ち上げることにつながっていく。

10年後のあたらしい事業にむけて

 大村社長は、将来の計画を立てるときには10年単位で先を見て、どの事業をのばして、どのような事業を新しく始めるかを決めるという。リーマン・ショックを経験してからは、賃貸あっせん・管理業に事業の軸をもどして、創業時からの強みであるITを生かすことで、これからの未来に新しく何ができるかを考えてきた。

 APAMANグループは、賃貸不動産業界で最大級のデータベースを使って情報と情報を結ぶことで、その人がほしいと思う情報を伝えるとともに、ニーズにあうサービスを提供してきた。人の手では追いつかないようなスケールの大きいデータを扱うなかで、データを効率よくサービスに生かすことができる人工知能(AI)や業務自動化システム(RPA)が今後のビジネスのカギになると考えた。そして、AIやRPAを使いこなして新しいビジネスができるように研究を始めた。

 ITを使ってどこまでよいサービスをつくることができるどうかかは、情報データベースの大きさが勝敗を決めると大村社長は強く感じてきた。そのため、世界的なIT企業が次々に生まれてあたらしいサービスを広げるなかでも、APAMANグループは自社のデータベースをつくることにエネルギーを惜しまなかった。

(つづく)

【取材・文・構成/石井 ゆかり】

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