2024年11月22日( 金 )

福岡を活性化させた傑物伝 アパマングループ代表大村浩次氏(16)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

創業時の原点にかえる

大村 浩次 氏

 ITを活用して不動産業界をよくしたいという思いから会社を設立したため、上場した当時はITテクノロジーを使ったクラウドを提供し、のちに賃貸あっせん事業や管理事業にビジネスを広げていった。しかし、いまでは賃貸あっせん・管理業のサービスの多くがITを使ったものになり、いかにITテクノロジーを活用できるかということが企業の力を左右するようになった。そのため、2017年に創業時の原点に立ちかえり、ITテクノロジーを使っていままでにないサービスをつくり、社会に提供するグローバル企業になることを決めた。

 そして社名をAPAMAN(株)に変更するとともに、「Cloud technology(クラウドテクノロジー)」「Platform(プラットフォーム)」「Sharing economy(シェアリングエコノミー)」を3つの事業の柱にした。クラウドテクノロジー事業は、人工知能(AI)や業務自動化システムのRPA、不動産テックと呼ばれる不動産とITを組み合わせた技術などを扱う。プラットフォーム事業では賃貸あっせん・管理業や住居関連のサービス、シェアリングエコノミー事業ではコワーキングスペースや民泊などを展開している。

シェアリングエコノミー市場は2025年には約38兆円に

 モノをもつより、使いたいときにモノを借りたいというニーズから広がるシェアリングエコノミー。シェアリングエコノミーの世界市場は2025年には約38兆円(3,350億ドル)になると予想されており、将来的には100兆円まで成長するといわれている。APAMANグループにとってのシェアリングエコノミー事業は、使いたい人にモノを貸す不動産業のノウハウをいかした新しいビジネスだ。シェアリングエコノミー事業では、コワーキングスペースのfabbit(ファビット)事業、民泊事業、Share Cycle(シェアサイクル)事業、コインパーキング事業、シェアパーク事業などを展開している。

 シェアリングエコノミーの良いところは、モノを買うことに比べてモノに対する敷居が低くなるため、気軽にモノが使えるようになることだ。モノを買うときには、買い物がうまくいっても失敗しても、買ったモノをもつことになる。そのため、どのようなモノなのか、なにを選べばいいのかなど多くの判断が必要だ。一方で、モノをシェアして借りることは、モノを買うときに比べて、「モノをもたない」ことからリスクは少ない。そのため、気軽に使って試すことができる。そして実際に使ってみることで、自分の感覚を通してどういうモノなのかがわかるようになる。今は、直観や感覚でわかりやすいものが求められる時代。たとえば、スティーブ・ジョブズがデザインしたiPhoneは、説明書を読まなくても、見て触って使ってみることで感覚を通してわかるものだ。モノを使ってみる実際の体験が注目される時代の流れから、シェアリングエコノミーのニーズが生まれているという。

モノをもつことの感覚が変わった

 人や企業はモノをもっていても、いつも使っているわけではない。また、買ってから使っていないモノもある。人や企業にとって、持っているモノを眠らせておくのはもったいないため、モノを人と共有したいというニーズが高まっている。民泊事業では使っていないときに人に部屋を貸し、シェアパーク事業ではマンションの駐車場の空きスペースをシェアする。トヨタ自動車(株)が自動車のライドシェアをメイン事業として取り組むなど、モノをもつことに対する感覚が世界的に変わってきているという。

モノを使いやすく借りやすく

 賃貸不動産業で部屋を借りたい人にサービスするなかで、どのようなサービスをしたら部屋を借りやすくなるのかをいつも考えてきた。その1つが、モノを使い始めるときの負担が小さくなると、モノを借りやすくなることだ。たとえば、新しい部屋を借りるときに必要な敷金や礼金。APAMANグループは、敷金0礼金0という今までになかったサービスをつくり、部屋を借りやすくした。シェアリングエコノミーは、手頃な予算で使い始めることができるため、さまざまなモノを気軽に試したいという今の社会のニーズに合っている。「借りやすくすること」に取り組んできたこれまでの経験やノウハウが、シェアリングエコノミー事業に生きている。

スマートフォンが普及し、シェアしやすい時代に

 シェアリングエコノミーが広がっているのは、スマートフォンなどのITデバイスを多くの人が使うようになり、シェアしやすい仕組みが整ったためといわれている。たとえば、モノをシェアするには、いつどこで誰がモノを使っているかがわかり、使うための予約ができて、料金の支払いができることが必要だ。スマートフォンができてから、モノをシェアするために必要な情報をインターネットで簡単に共有できるようになり、モノをシェアしやすくなったという。

 IoTとよばれるモノをインターネットにつなぐ仕組みができてから、離れた場所にいても、スマートフォンやパソコンからモノのある場所や稼働状況がわかるようになった。たとえば、シェアサイクル事業では、自転車のある場所をスマートフォンから探すことができる仕組みをつくり、自転車のシェアを実現している。また、IoTを使うことによりリモコンで操作するように、スマートフォンやパソコンからモノを操作できるようになった。民泊事業では、これまで人の手が必要だったカギの管理に、シェアリングキーとよばれるスマートフォンでロックできる仕組みを採用。人がいなくても部屋にチェックインできるため、お手頃な価格で便利に部屋を貸し出すサービスを実現した。

(つづく)
【取材・文・構成:石井 ゆかり】

(15)
(17)

関連記事