【北海道知事選2019】官邸vs北海道「独立宣言」の構図鮮明~玉城デニー沖縄県知事が石川氏を応援
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「石川氏は国策捜査の被害者」佐藤優氏
統一地方選挙唯一の与野党激突の構図となった「北海道知事選(4月7日投開票)」が3月21日に告示され、鈴木直道・前夕張市長(自公・新党大地推薦)と野党統一候補の石川知裕・元衆院議員(立憲民主・国民民主・社民・共産・自由推薦)が対照的なスタートを切った。鈴木氏の出陣式には自民党の甘利明・選対委員長と公明党の斉藤鉄夫幹事長、鈴木宗男新党大地代表の政党幹部が勢揃いしたのに対して、「北海道独立宣言」を掲げる石川氏の第一声に駆けつけた野党幹部はゼロ。その代役を務めるかたちで北海道入りしたのが、辺野古新基地阻止のために保革が結集した「オール沖縄」で沖縄県知事選に勝利した玉城デニー知事だ。告示前日の札幌での集会と翌21日の街頭演説で石川氏へのエールを送ったのだ。
日本列島を縦断して駆けつけた理由について玉城知事は、「石川さんと私は同じ師匠(小沢一郎自由党代表)をもつ間柄」であることをまず挙げ、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐって元秘書だった石川氏が2010年に政治資金規正法違反で逮捕されたことに触れた。
「理由も何もない。『日本の司法がそれでいいのか』という状況に追い込まれて、それでもご本人はしっかりと耐えて、道民のために今こそ頑張りたいという大きなチャンスがやってきたことは、天の配材ではなかったのかと思います」
集会後の囲み取材では、より詳しく玉城知事は語った。
「あれだけ国策捜査に翻弄されて、恐らく司法の体をなしていないような判決であろうともしっかりと身を処した。地に伏して、並々ならぬ苦労と、『自分ができることがあれば、たくさんの方々とお応えしたい』という消えずに燃え続けていた静かな炎があったと思います」。
逮捕歴があることは石川氏のマイナス要因になり得る懸案事項だが、玉城知事は国策捜査との見解を披露しながら〝援護射撃〟したといえる。ちなみに石川氏の推薦人には、同じく東京地検特捜部に逮捕・拘留された元外務官僚で作家の佐藤優氏が名を連ねた。直前に石川氏が決意表明で紹介したが、両者の共著『逆境を乗り越える技術』で佐藤氏は、石川氏とのやりとりを次のように紹介した。「小沢一郎さんを捕まえる『階段』として、まず石川先生を逮捕したということだ。ちょうど鈴木宗男さんを捕まえるために外務省のラスプーチンこと佐藤優が『階段』になったのと同じだ」(『逆境を乗り越える技術』p250)。
石川氏の逮捕直後の2010年2月1日の論考でも「検察の目的は、石川知裕という政治家を叩き潰すことではない。石川氏を『階段』にした小沢一郎民主党幹事長を政界から除去することだ」と指摘したうえで、こう続けていた。
「検察は、石川氏を含む秘書3人の事件を、小沢氏につなげることができなかった。もし、石川氏が逮捕で動揺して『ふにゃふにゃ』になってしまい(中略)小沢氏を巻き込むような事実と異なる供述をしていたならば、その後の展開は大きく変わっていただろう。小沢氏は確実に逮捕され、事実と異なる物語がつくられて、歴史に定着してしまうところだった」(『逆境を乗り越える技術』p256)。
なお検察官との会話の録音を石川氏に勧めたのも佐藤氏で、これによって捜査報告書の偽造が明らかになった。
作家生命を賭して、逮捕された石川氏の支援をした佐藤氏は今回の北海道知事選でも、「石川氏は小沢氏逮捕のための『階段』にされた国策捜査の被害者」との見方を変えず、推薦をしたといえる。どれだけの有権者が「政治資金規正法違反の逮捕歴のある候補者」とマイナスイメージで捉えるのか、「国策捜査の被害者」「検察から小沢氏を守った闘士」とプラスイメージを抱くのかが知事選を左右する一要因になりそうだ。
「中央(官邸)=鈴木氏」対「地方=石川氏」の闘い
そんな中、正反対の対応をしたのが、佐藤氏と同時期に東京地検特捜部に逮捕された鈴木宗男氏。かつて新党大地の衆議院議員で、しかも同じ経験をした「国策捜査被害者」でもある石川氏を支援するのではなく、鈴木直道氏を推す側に回ったのだ。出陣式後に宗男氏を直撃、佐藤氏との対応に違いについて聞くと、「佐藤氏は名前を連名で貸すだけだ」と強調するだけで、自身が石川氏支援をしなかった理由について聞くことはできなかった。本サイトで紹介した佐藤氏と鈴木氏が講師を務めた1月の新党大地塾での勉強会(北方領土返還がテーマ)の時には、私の質問に「どちらを支援するのかは成り行きで決める」と答えたが、どんな経緯で結論に至ったのかは語らなかった。
告示前日の札幌講演に戻る。石川氏の逆境について語った玉城知事は集会後に、北海道知事選の構図が沖縄県知事選と同様、「中央対地方」「国策追随型の自公推薦候補 対 地方独立派候補」であるとも指摘。「石川候補が国策、カジノ誘致や原発再稼動、JR廃線に反対していることについてはどう感じているのか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。
「日本が間違えるべきではない道を示唆しているものと一緒だと思います。原発神話はもう崩壊しましたし、『カジノ頼みの外貨で地域が豊かになる』というやり方も、経済的な繁栄をつくっていく観点からは間違っていると思っています。ですから沖縄県もカジノに頼らないMICEを活用した本当の意味での振興計画で、訪れる方々も幸せになるお互いの成長をつくっていきたい」。
北海道知事選の三大争点(カジノを含むIR誘致・泊原発再稼動・JR北海道の鉄道存続問題)でも、鈴木氏と石川氏の訴えは対照的。「国と道と市町村が一体」と強調する鈴木氏だが、菅官房長官が積極的なカジノ誘致については「道民目線」として賛否不明瞭、同じく安倍政権推進の原発再稼動に対しても異論を唱えることなく、JR存続問題でも国に求める具体的提案内容を語ることもない。地震の被災地である安平町での第一声でも、国策に関わる知事選三大争点について語らなかったので、直後の囲み取材で「国策のJR・IR・原発に触れなかった理由は何か」「国策追随の官邸言いなり知事になるのではないか」と聞いたが、一言も答えることはなかった。
一方の石川氏も、隣の被災地の厚真町で第一声をあげた後、JR存続問題で揺れる浦河町から地元十勝へと移動したが、「カジノ反対・脱原発(自然エネルギー拡大)・JR鉄道存続」を明言、安倍政権に追随しない北海道独自路線を目指すことを訴えていった。
沖縄にできたのだから、北海道にも必ずできる
石川氏の妻の香織衆院議員も、父が東京地検特捜部に逮捕され、冤罪を訴えた家族が離散状態になった境遇の持ち主。女子アナ時代には番組降板も経験。「将来、議員辞職をするかもしれないし、本当に苦労するよ」という同僚の助言を聞き入れずに結婚したのはこうした経験を持つからだ。
告示日の20日11時から玉城知事は札幌駅前で街頭演説。被災地で第一声をあげた候補本人に代わって石川香織議員らが一緒に街宣車上でマイクを握った。
玉城知事は、沖縄県知事選で中央とのパイプを強調した自公推薦候補を例に挙げ、今回の北海道知事選を重ね合わせたうえで、石川氏への支援を訴えた。
「中央とのパイプをことさらに主張する方がいるかもしれません。『国の力なくしては何もできない』と言う方がいるかもしれません。しかし、かつて沖縄は40年間、国とのパイプを強調するあまり、たくさんの予算が流れてきても、その7割から8割は全部本土の業者が吸い取ってしまった。沖縄の足腰は育たなかった」
「いま沖縄は、ありがたいことに観光客の増加、それからインフラ関係の投資、アパートマンションの建設、非常に活況を呈しています。これはアベノミクスの活況とはまったく関係がありません。沖縄県が、沖縄県に与えられた力と予算で行政のみならず経済界の方々も自分たちの方向性をしっかり協力しながら、県民とともに取り組んでいる成果にほかなりません。沖縄ができるのですから北海道は必ずできます」
辺野古新基地強行で保守分裂となった沖縄県知事選に似た「中央(官邸) 対 地方自立を目指す保革合体オール北海道」との様相を呈してきた北海道知事選。巨大戦艦のような自公推薦の鈴木氏が先行して石川氏が追う展開との報道も出たものの、有権者の約4割が未定で情勢が変わる可能性は十分にある。対照的な両候補が激突する北海道知事選から目が離せない。
【横田 一/ジャーナリスト】
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