疫学研究、介入試験等で「食の予防効果」は証明されている 商品開発のポイントは「機能性+美味しさ」(後)
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早稲田大学
ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所 ヘルスフード科学部門 研究院 教授 矢澤 一良 氏―介護予防の観点から、高齢者の食生活、とくにフレイル対策の食事のあり方が議論されています。
矢澤 認知症を防ぐためには、意識して魚料理を多く摂るように心がけなければなりません。ハーバード大学の研究では、動脈硬化による心臓病にかかる率は、魚を食べる回数が月に1回未満の日が最も高く、月1~3回は21%、週に1回は29%、週に2~4回なら31%、それぞれリスクが減ることがわかりました。米国人男性医師約2万人を対象とした研究でも、魚を食べる習慣のある医師は81%もリスクが低かったというデータがあります。また、認知症の予防効果では、1日に魚を3g摂取している人は脳血管性認知症、アルツハイマー病のいずれもリスクが低下するとの研究データがあります。魚を食べれば食べるほど脳機能には良いということです。これらの研究結果はEPAやDHAといった特定の魚油に限定しません。すべての魚が該当します。日本では疫学調査により、17年間にわたって24万5,000人の食生活を追跡しています。この調査では、毎日魚を食べている人に比べて、ほとんど食べない人は総死亡率が32%増加し、胃がん罹患率は44%増、肝臓がんに至っては2.6倍になっています。こうした疫学調査の結果から見ても、食事には予防効果があることがわかります。
食生活などの環境因子は、エピジェネティックと呼ばれる遺伝子の働きにも大きな影響をおよぼします。両親から受け継いだDNA情報(塩基配列)は変わっていないのに、生まれた後に遺伝子の働きが変わった例として、世界的にも有名なコホート研究「オランダ飢餓研究」があります。これは名前の通り、第二次世界大戦中の飢餓の影響を追跡した研究です。
それによれば、戦時中ドイツ軍の経済封鎖と、厳しい冬のために極度の低栄養状態を経験した妊婦から生まれた子どもたちの多くが飢餓状態となりました。幼児期は異変が見られませんでしたが、成人し中年期になると統合失調症の罹患率や、肥満、糖尿病などのさまざまな代謝疾患の頻度が非常に多く見られたというものです。
3つ子の魂百までという言葉がありますが、病気になる、ならないの体質は、実は出生前の母親の食生活、ストレスなどによって決定付けられるといえます。出産年齢の若い女性が過度なダイエットをするのは、子どもの将来の疾病リスクを高めることになります。先程の食事のタイミングも考慮する必要があるでしょう。食べるタイミングを考えながら、必要な食事(栄養素)を必要な分だけ摂るようにすれば、病気を未然に防ぐことは可能なのです。
(了)
<プロフィール>
矢澤 一良(やざわ・かずなが)
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 研究院教授。1972年、京都大学工学部工業化学科卒業。ヤクルト本社・中央研究所入社、微生物生体研究室勤務。 その後、(財)相模中央化学研究所に入所、東京大学より農学博士号を授与される。2000年、湘南予防医科学研究所設立。02年4月、東京水産大学大学院(現・東京海洋大学大学院)水産学研究科ヘルスフード科学(中島董一郎記念 キユーピー(株))寄附講座客員教授。その後、東京海洋大学「食の安全と機能(ヘルスフード科学)に関する研究」プロジェクト特任教授を経て、現在、ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 研究院教授。予防医学、ヘルスフード科学、脂質栄養学、海洋微生物学、食品薬理学を専門とする。関連記事
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