2024年11月23日( 土 )

商号復活の「日本製鉄」~昔の夢を取り返せるか(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 イギリスで起こった産業革命以降、「鉄は国家なり」といわれ、鉄の生産量こそが国力そのものであるとされ、生産量第1位に上りつめた国は、イギリス→ドイツ→米国→日本→中国の順で移り変わり、現在中国1位、欧州連合2位、日本は3位となっている。

【表1】を見ていただきたい。日本の製鉄業界変遷の歴史である。

※クリックで拡大

~この表から見えるもの~

 官営の八幡製鐵所が1901年2月5日、東田第一高炉を操業してから118年が経過している。

 1934年1月29日、官営八幡製鐵所を中核として、輪西製鐵、釜石鉱山、三菱製鐵、九州製鋼、富士製鋼の6社が合同し、オールジャパンの鉄鋼メーカーとして日本製鐵がスタートした。政府が株式の大半を保有し、「日本製鐵法」という法律に基づく、まさに文字通りの国策会社だった。

 日本製鐵は1950年、過度経済力集中排除法により、八幡製鐵、富士製鐵、日鉄汽船、播磨耐火煉瓦に4分割されたが、20年後の1970年、八幡製鐵と富士製鐵が合併し新日本製鐵が誕生。この時点で、日立製作所を抜いて売上高日本一のメーカーとなり、1980年代にトヨタ自動車に抜かれるまで、長年その位置を占め続け、3名の会長が経団連会長を歴任している。

【表2】を見ていただきたい。日本企業の2018年3月期の売上高順位表(20位)である。

※クリックで拡大

~この表から見えるもの~

 新日本製鐵が誕生して50年近く経った2018年の売上高トップは、トヨタ自動車。かつて売上高日本一を誇った新日鐵住金は20位。JFEHDは38位、神戸製鋼所は81位となっている。

 新日鐵住金・JFEHD・神戸製鋼所の3社の売上高を合計しても11兆2,283億円で、5位の日本電信電話につぐ6位であり、鉄鋼業界の地位低下が目立つ。

〜鉄鋼業界に暗雲の兆し〜

 世界最高水準の技術力を背景に、構造不況業種から力強い復活を遂げた日本の大手鉄鋼メーカーの収益環境に再び厳しさが迫ってきている。自動車の電動化にともない、鉄鋼業界の主力である自動車業界に素材革命が起きている。

 トヨタ自動車は昨年2月に発売した「プリウスPHV」のバックドアの骨格に、鉄の4分の1の軽さながら10倍の強度をもつ三菱ケミカルの炭素繊維を採用。「鉄離れ」の兆しが出始めている。

 ただ、夢の素材といわれる「炭素繊維」には弱点がある。鉄が1kgあたり100円程度の世界で勝負しているのに対し、炭素繊維は同2,000円前後もするからだ。

 素材メーカー関係者は、「鉄のお株をすべて奪えるなんて、はなから思っていませんよ」と口をそろえて言っているが、その夢を実現するために三菱ケミカル、帝人に続き、業界首位ながら量産車へのアプローチが遅れていた東レも、昨年7月に過去最高の1,200億円を投じてオランダの炭素繊維複合材料メーカーのTACHD社を買収。前出の2社に比べて不足していたノウハウを手に入れ、量産車への早期採用を目指しており、炭素繊維の価格は今後大幅に下がるものと予想されている。

(まとめ)

 1934年にオールジャパンの鉄鋼メーカーとして日本製鐵がスタートしたように、今年4月、69年振りに商号を復活した日本製鉄が最初に打つ手は、経営状況が厳しい神戸製鋼所が外国の鉄鋼メーカーに買収されるのを防ぐために吸収合併することであり。次にJFEHDと大統合すれば「昔の夢を取り返す」ことができる。通産省も独禁法を問うことなく、鉄鋼業界がオールジャパンとして世界に伍していくことを望んでいるように思えるからだ。

 その鍵を握るのは【表3】の歴代トップから見えるように、日本製鉄の影の実力者であり、住友金属工業との経営統合を成功させた宗岡正二相談役が、歴代3番目の「名誉会長」として残るかどうかにかかっているのではないだろうか。

※クリックで拡大

(了)
【(株)データ・マックス顧問 浜崎裕治】

(中)

関連記事