2024年11月30日( 土 )

岐路に立っているテスラ(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 それでは、テスラはどのような問題に直面しているのだろうか。テスラが今まで生産した累積生産台数は34万台くらいである。現代自動車は年間750万台の自動車を生産しているので、テスラの累計生産台数はその5%弱にしか過ぎない。

 テスラはロボットをフル活用した最新の量産体制を構築しようと努力しているが、生産ノウハウが確立しておらず、結果的に不良品が多く、計画通りの生産には至っていない。自動車産業はとても複雑な産業で、生産技術が簡単に蓄積される分野ではない。電気自動車は部品点数が減り、異業種からも簡単に参入できる産業とされているが、結果的にこれは安易な考えであったと証明されたかたちとなった。テスラは生産地獄のような状況に陥っておりで、この危機をテスラがどのように乗り越えるかが試されている。

 しかし、役員だけでも1年で数十人が会社を離れていくような厳しい状況で、テスラの前途は決して明るいとはいえない。それに、電気自動車の普及が確実になってくると、既存の自動車会社は長年蓄積されたブランド力と大量生産能力を武器に、電気自動車市場に参入してくるのは間違いない。テスラは競争激化に巻き込まれることが必至で、そうなると、収益が悪化する可能性もある。

 メルセデスベンツは2022年までに10車種以上の電気自動車を発売予定であると発表しているし、フォルクスワーゲンも2030年まで合計200億ユーロを投入し、300車種以上の電気自動車を出荷する計画があることを明らかにした。BMW、GM、アウディなども電気自動車の生産計画があることはいうまでもない。さらに、米国連邦政府のEV購入支援策も急激に減少し、それも電気自動車会社の今後の業績に悪い影響を与える可能性が大きい。

 18年まで連邦政府の税控除は1台あたり7,500ドルだったが、今年1月からは、その金額が半分である3,750ドルに。今年7月には、さらに半分の1,875ドルになり、来年1月には税控除がゼロになる。

 テスラが現在のような危機に陥ったもう1つの原因として挙げられるのは、死亡事故である。2016年5月の運転者の死亡事故をはじめ、衝突でバッテリーが爆発したことによる死亡事故など、複数の事故がテスラの信用を落としている。このように複数の要因が絡み合い、テスラの業績は悪化している。

 テスラが今回の危機を乗り越えるための唯一の道は、危機の原因である「モデル3」の量産にかかっている。生産台数を順調に伸ばし、売上高を伸ばしていけば、株価も、資金の問題も全部解決できることになる。しかし、量産台数の増加に失敗すれば、テスラの前途は厳しい。テスラにはあまり時間が与えられていないと思われる。しかし、テスラに対する期待がなくなったわけではない。

 テスラが危機に陥れば、テスラにバッテリーを独占的に供給していたパナソニックも危機に直面することになるだろう。電気自動車の普及に重大な影響をおよぼすことになるテスラの動向から目を離すことができない。

(了)

(前)

関連記事