2024年10月02日( 水 )

「プロ経営者」松本晃氏、RIZAPで初めての挫折(前)

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 プロ経営者として知られる松本晃氏が、たった1年でパーソナルジムのRIZAPグループを去る。就任時に公約に掲げた「瀬戸健社長を一流の経営者に育てたい」との旗を下ろし、プロ経営者として初めての挫折となった。それはなぜか?

中期経営計画は不要

 松本晃氏は歯に衣着せぬ発言で知られる。

 〈経営は特に難しいことではありません。というか、難しくしてはいけません。僕は特別頭が良いわけでも、悪いわけでもありません。勉強はしているけど、難しいことは頭に入らず、役に立つことだけを覚えています。それぐらいが経営者に向いていると思います。会社は人間がやるものです。簡単なことですら実行が難しいのに、まして難しいことは不可能です。経営をしたことがない学者やコンサルタントの本なんて難解そのもの。僕がゴルフの教科書を書くような感じです。〉(日本経済新聞「人間発見」13年2月18日~22日付夕刊)

 経営者の指南役を任じるコンサルタントが目を剥きそうな言葉が並ぶ。

 経営者やコンサルタントが金科玉条としている中期経営計画は1度もつくったことがない。日々変化する世の中にあって、今から1年後を予測する能力はない。ましてや5年後の世界、日本、産業、会社を予測、予知する能力はない。膨大な時間と労力、そしてお金をかけて中期経営計画をつくる割には、うまくいっても最初の1年だけで、3年経つと忘れられてしまうと、松本氏は手厳しい。綿密に中期計画を立案して、それを経営目標とする大企業の経営者の神経を逆撫でする発言だ。

現場志向の経営者

 松本氏は、伊藤忠商事、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人、カルビーを経て、昨年6月RIZAPグループに転じた。J&Jでは社長を務めた9年間に、売上高を3.6倍に増やした。カルビーでは、08年3月期に2.1%だった営業利益率を15年3月期には10.8%にするなど、“松本マジック”と言われた。

 中期経営計画を時間とカネの無駄とみなす松本氏は、現場志向の経営者だ。オフィスに籠もっていることはない。J&Jは医療機器の販売会社。医療機器の販売は売って終わりではない。顧客に使い方までしっかり教え込まないと、トラブルが起こる。売る人は医療機器について医師よりも熟知する必要がある。松本氏の現場通いに拍車がかかった。現場というのは外科の手術室だ。

 外科医と看護師が働く手術室で、邪魔にならないように、手術に立ち会う。社員教育は厳しい。米国本社で動物実験など実地研修を受けさせ、試験にパスしないと不採用とした。 

 カルビーでは、工場に出向き従来の調達方法の無駄の多さと非合理さを説き、コスト圧縮の重要性を訴えた。その結果、08年以前には70%を超えていた売上原価率は09年3月期には64.8%に下げた。

 コスト圧縮で浮かせた利益を営業利益に組み入れることはしなかった。これを製品の値下げの原資にし、消費者に還元した。カルビーの商品は競合品より15%ほど高い値段で販売してきた。これを競合品並みに値下げして販売量が一気に増えた。これで工場の稼働率が上がり、コストが劇的に下がったことで、コスト圧縮に誰も文句を言わなくなった。松本氏の経営改革のユニークさは、利益をユーザーに還元して何倍もの利益を得たことにある。

(つづく)
【森村 和男】

(後)

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