2024年10月02日( 水 )

「プロ経営者」松本晃氏、RIZAPで初めての挫折(後)

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M&Aの凍結を提案

 松本氏は18年6月、瀬戸健社長に請われてRIZAPグループの代表取締役最高執行責任者(COO)に就いた。現場を見れば、会社の実態がわかる。松本氏が体験から導き出した経営のツボだ。

 積極的なM&A(合併・買収)で急拡大してきたRIZAPの実情を見極めようと、早速、買収先の企業を1社ずつ見て回った。すると「こんな会社を買ってどうするんだ」と思うような買収先がいくつもあり、販売不振で在庫が積み上がっていた。

 松本氏は瀬戸社長に新規のM&Aを全面凍結し、収益を上げられる事業に絞り込む体制への再構築を提案した。当時、瀬戸社長は「毎月10社を資産査定し、平均1社を買収する」と豪語していた。

 松本氏の進言に瀬戸社長はなかなか首をタテに振らなかった。M&Aが「成長と利益の源泉」だったからだ。RIZAPの利益の大半は買収企業を純資産より安く買うことで、その差額を利益計上する「負ののれん」代だ。その額は17年3月期に59億円、18年同期に74億円に上る。国際会計基準の会計マジックだ。

 「負ののれん」による利益計上は買収企業の構造改革がうまくいけば、問題はないが、失敗すると減損に追い込まれるリスクをともなう。こうした会計操作を松本氏が嫌い、瀬戸社長にM&Aの凍結と事業の整理を迫った。

 RIZAPに入る前、松本氏は「おもちゃ箱みたいで、面白い」と受け止めていたが、評価は一変。「まるでゴミ箱のようだ」に変わった。瀬戸氏が前のめりで進めるM&Aについても、「成長と膨脹をはき違えている」とバッサリ切り捨てた。

 ここから松本氏と瀬戸社長ら経営陣とのバトルが火を吹いた。10月1日に松本氏は突然、COO職を外れた。松本氏追い落しのクーデターと言われた。松本氏は猛反撃する。

 「自分と決別するか、新規M&Aを凍結するか」を瀬戸社長に突き付けた。三顧の礼で迎えた松本氏を半年でクビにしたら、瀬戸氏の信用は失墜する。瀬戸社長は、M&Aの凍結を受け入れた。傘下企業の在庫損を計上することも同時に決断した。

 2019年3月期の連結決算の最終損益は193億円の赤字に転落。90億円の最終黒字だった18年3月期とはうって変わっての大赤字だ。100億円以上の利益を見込んでいた「負ののれん」を計上できなかったこと、業績悪化したグループ会社の売却で売却損を計上したことによる。

 収益を回復するには、M&Aを再開し「負ののれん」で利益を捻り出すしかない。それには、ウルサ型の松本氏が邪魔。18年10月にCOOを外したのに続き、19年1月代表権の返上、そして6月の株主総会での取締役退任に追い込んだ。これで心おきなく、M&Aに励むことができるというものだ。

 「プロ経営者」松本氏の挫折は、本来、うしろ盾になるはずの瀬戸社長が、最大の抵抗勢力だったことにある。

(了)
【森村 和男】

(前)

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