トランプによるデカプリングは主体が中国に逆転する可能性も!
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7月13日(土)13時30分~16時00分に大阪経済法科大学東京麻布台セミナーハウスにおいて、NEASE-Net(北東アジア研究交流ネットワーク)第45回政策セミナーが開催され、『米中貿易戦争とアジア』と題して平川均 名古屋大学名誉教授・浙江越秀外国語学院東宝言語学院特任教授が講演、杉本勝則 北京外国語大学客員教授がコメンテーターを務めた。平川均氏は講演のなかで「トランプによるデカプリング(切り離し)は中国によるデカプリングに主体が逆転する」可能性があることを示唆した。
貿易問題が安全保障上の脅威などの問題に質的に転換
平川均氏はまずトランプ大統領の誕生(基本姿勢は民主主義の大義や同盟関係とは無関係の「アメリカ第一」で多国間主義を否定した2国間取引による脅迫外交)と米中貿易(アメリカの対中貿易赤字は1990年の9.4%から2018年には48.0%に増大)の基本構造について話はじめた。そして、アメリカの第1次攻勢と休戦(P.ナバロ大統領補佐官・対中強硬派)、第2次攻勢と休戦(ライトハイザーUSTR代表・対中強硬派)の「米中貿易戦争」の詳細を時系列で振り返った。
ポイントは大きく2つある。1つは、第2次攻勢では「貿易問題」とは次元の異なる「中国製造2025」の産業補助金問題や為替操作への言及など、「安全保障上の脅威」「技術覇権問題」「異なる体制問題」などへ質的に転換したことである。もう1つは、トランプの考えるディールと政権内や議会の対中強硬派の考えに違いが出てきたことである。
国家レベルと企業レベル双方における分断を仕掛ける
次に、平川氏はトランプのデカプリングに言及した。トランプの考えるデカプリングとは、国家レベルでは「米陣営と非米陣営への分断」、企業レベルでは「世界的ビジネスのサプライチェーンの分断」を意味する。平川氏ははたしてこのトランプのデカプリングは成功するか否かを占った。結論として「トランプによるデカプリング(切り離し)は中国によるデカプリングに主体が逆転する可能性がある」と語っている。その根拠は大きく分けて3つある。
ファーウェイ問題が中国包囲網につながる可能性はない
根拠の1つ目は、「ファーウェイ問題のゆくえ」と中国の科学技術力である。ファーウェイは次世代通信技術5Gの世界トップ企業であり、取引禁止措置が中国包囲網になることは極めて難しい。今、明確に排除を表明しているのはアメリカとオーストラリアだけである。
中国の科学技術について、研究論文数(米国に肉薄、世界第2位)は有名であるが、ハイテク研究テーマ別ランキング30テーマでも、その8割(ナトリウムイオン電池、リチウムイオン硫黄電池、酸化還元、光触媒、水素発生触媒など)で世界の首位にある。(日経2018.12.31)また日経「主要商品・サービスシェア調査」(2018年)ではスマートフォンなど9品目で中国は世界シェアを拡大中である。週刊エコノミストのOnlineには「制裁でも揺るがぬ5G覇権 孤立する米国の『排除戦略』」(2019.7.8という記事が載った。
中国経済の貿易依存度と外資依存度は大幅に減少した
根拠の2つ目は、中国で今起こっている2重の自立化である。中国では2000年代に入って経済の対外依存度(貿易依存度と外資依存度)の低下が始まっている。
中国の貿易比率は1990年代から2005年の64%に向って大きく上昇したが、その年をピークに減少に転じ2015年の比率は36%になった。中国経済発展における貿易依存度は小さくなっている。同様に外資系企業の貢献度も大きく低下傾向にある。
根拠の3つ目は、中国の最大貿易相手はすでにアメリカではなくなったことである。貿易相手国は、新興国、アジアに移り、貿易構成でもアメリカ離れが大きく進んでいる。東アジア(アメリカのGDPの130%)貿易もアメリカ依存から中国依存に劇的に転換した。それを踏まえて、中国の習近平国家主席は本年4月25〜27日に北京で開催された2回目の「一帯一路」国際協力フォーラムで、国際ルールの遵守を明言し「質の高い一帯一路」を約束、国際社会への最大限の配慮を表明した。
アメリカの政治的・地政学的覇権を弱めることになる
最後に平川氏は「アメリカ第一」で多くの国が翻弄されているが、立ち止まって冷静に事態を直視すれば、その先の新たな構図はすでに見えている。トランプのデカプリングは中国経済の自立化を促進させ、中国に新たな市場を求めさせ、並行して質の高いインフラ建設を余儀なくさせる。その結果、アフロ・ユーラシア地域(南北のアメリカ大陸とオーストラリア大陸以外のすべてが含まれる世界最大の大陸)の開発が進み、アメリカの政治的・地政学的覇権を弱めることになるのではないかと語った。
<「一帯一路」から「グローバルガバナンス」の言葉に>
平川均氏の後、杉本勝則氏が「中国の体制と米中貿易戦争の今後の展開」と題して現場感覚の短い講演を行い、会場とのQ&Aに続いて、谷口誠NEASE-Net代表幹事(元国連大使)が総括・挨拶をした。
谷口氏は講演者・コメンテーターに感謝した後、G20で大阪に行き6月25日にNEASE-Netを代表して講演したことを報告した。そして、G20で中国の習近平主席は「一帯一路」という言葉はほとんど使わず「グローバルガバナンス」という言葉を好んで使った。また、中国社会科学院の研究者も最近はあまり「一帯一路」を強調することがなくなった事実を披露、もはや「アメリカ第一」になった米国に代わって、中国は「グローバルガバナンス」を意識し始めたのではないのかと語った。
次に話題をOECDの世界経済のシナリオ『The Long View: Scenarios for the World Economy to 2060)』(世界経済の中心はアジアへ移行、中国とインド両国ともそれぞれ世界全体のGDPの20%~25%占めるのに対し、OECD諸国のシェアは40%をわずかに上回る程度と予測されている)に移し、2060年には、中国、インド、アメリカの3つどもえにはなるが、アジアの世紀が来ることは間違いない。しかし、経済が大きいだけではダメで、歴史のある欧米の知見に学びながら、中国、インドを中心にアジアの国がしっかり「グローバルガバナンス」の舵取りができるようになる必要があることを谷口氏は強調した。
【金木 亮憲】
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