2024年11月25日( 月 )

孫正義氏、アスクル問題で吠える「裏で糸を引いたとか、忖度させた覚えはない」(前)

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 ソフトバンクグループ(SBG)は8月7日、決算説明会を開催した。普段は、孫正義会長兼社長の戦略説明の独演会になるが、今回は趣が異なったようだ。大問題に発展したアスクル問題に対する質問が出た。

独立社外取締役解任で、非難の集中砲火を浴びる

 朝日新聞デジタル(8月7日付)が、『孫氏「裏で糸引いた覚えない」アスクル問題で発言』と速報で伝えた。

 〈オフィス用品大手アスクルが親会社のヤフーと対立し、創業者の岩田彰一郞社長が株主総会で退任を迫られた問題で、ヤフーを傘下にもつソフトバンクグループ(SBG)会長兼社長・孫正義氏が「私が裏で糸を引いたとか、忖度(そんたく)させた覚えはない」と発言した〉

 ヤフーとアスクルはともに東証一部に上場の「親子上場」の関係。ヤフーはアスクルの少数株主に配慮した経営が求められる。経済産業省は6月、上場子会社のガバナンス(企業統治)に関する指針をまとめ、親会社以外の株主の利益保護のための独立社外取締役の選任などを求めた。

 ところが今回、ヤフーは岩田社長を支持したという理由で、3人の独立社外取締役の再任にも反対した。独立社外取締役の最大の責務は、支配的な大株主から少数株主の利益を守ることにある。気に入らないからと、そのクビを大株主自身が切るのはタブー中のタブー。ヤフーは禁じ手に手を染めた。

 これが、大問題に発展した。株式市場の総元締め、日本取引所グループの清田瞭CEOは7月30日の定例会見で、「総会の直前になって議決権を行い、それによって子会社の安全装置ともいわれる独立社外取締役の解任にまで至ったことを懸念している」と発言。

 アスクルの独立役員会のアドバイザーで、日本取引所グループの社外取締役を務める久保利英明弁護士は7月23日、「ガバナンスというのは資本市場を機能させるために重要なファクターだ」と述べ、この問題を「座視しているわけにはいかない」と話した。

ヤフーの行動を孫氏は「否定」、宮内氏は「肯定」

 ことの重大さに、ヤフーを傘下にもつソフトバンクグループ(SBG)は8月2日、孫正義会長兼社長のコメントを公表した。

 「孫個人は投資先との同志的な結合を何よりも重視するため、今回のような手段を講じることについて反対の意見をもっておりますが、このたびの件はヤフーの案件であり、ヤフー執行部が意思決定したものです。本件はヤフーの独立性を尊重して、ヤフー執行部の判断に任せております」

 SBGにとってヤフーは孫会社にあたる。通信子会社ソフトバンク(SB)がヤフーを子会社としている。ヤフーの子会社がアスクルだ。アスクルはSBGの曾孫会社なのである。

 ヤフーの一連の行動について、グループ挙げての動きと見る向きがほとんどだったが、孫氏のコメントはそれを否定した。

 他方、ヤフーの親会社であるSBの宮内謙社長は8月5日の決算会見で、「ヤフーを肯定する」と発言。「事業を大きく伸ばすための大義があったと判断している」と述べた。

 独立社外取締役を解任したヤフーの行動に「反対」の孫氏と「肯定」の宮内氏。両首脳の見解は分かれた。

 一連のアスクル問題について質問が出ると、孫氏は「私が裏で糸を引いたとか、忖度させた覚えはない」と怒りを炸裂させたのである。

ヤフー川邊社長の忖度発言とはこれだ

 騒動の背景に、孫正義会長兼社長の意向を“忖度”してヤフーの経営幹部が動いたことは否めない。泥沼的対立を深めるなかで、ヤフーとアスクル首脳会談の内部資料が流出した。

 時は19年1月11日。場所はアスクル本社。出席者はヤフー側が川邊健太郎社長と、取締役常務執行役員で、アスクルの社外取締役・小澤隆生氏。アスクル側は岩田彰一郞社長と2人のCOO(最高執行責任者)。ヤフーは、グループのネット通販強化のため、アスクルの個人向けネット通販「LOHACO(ロハコ)」の事業譲渡の可能性について、アスクルに検討を求めた。

 ビジネス系ウェブメディアJBpressが、『ヤフー・アスクル騒動で暴落、経営者・孫正義の評判』と題して、トップ会談の議事録をスッパ抜いた。ヤフーの2人からは、孫氏の名前が頻繁に出てくる。川邊社長は、こう口にしている。

 〈ま、僕は別にそんなに孫さんと毎月やらなくてもいいと思ってるんですけど、宮内(謙)さん達以下、孫さんが大好きなので、毎月食事するんですね。そうすると、必ず孫さんが(私たちに)する質問は、「いつ樂天を抜くんだ」「いつアマゾンを抜くんだ」と、この2問しかないんですよ。「ロハコとやります」って回答するんですけれども、要するに(孫さんの質問は)「今のロハコのままで大丈夫なのか?」というものに、変容しつつある〉

 川邊社長の発言は、孫社長からの強いプレッシャーを受けていることをうかがわせる。

 アスクルの岩田前社長が、メディアとのインタビューで、「孫さんが背後にいると感じた」と語っているのも無理はない。

 孫氏のプレッシャーを受けた川邊社長らは、岩田社長と独立社外取締役3人の解任という強硬策に出た。「孫氏が裏で糸を引いた」とか「川邊社長が忖度した」とか指摘される所以だ。

 だが、ヤフーの強硬策は、「ヤフーはガバナンスに違反する」と大炎上した。その非難は強烈だった。

(つづく)
【森村 和男】

(後)

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