2024年11月05日( 火 )

【研究】『西日本新聞』九州地区ブロック紙の雄も事業リストラを余儀なくされる(後)

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(株)西日本新聞社

食い扶持は不動産業

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 業績の推移と決算内容を見てみる。連結売上高は08年までは700億円台を維持していたが、19年3月期では507億円にまで縮小した。

 利益面を見ると、営業利益が16億円程度で、受取利息などの金融収入で経常利益が20億円程度になるのがパターンだ。

 一見すると利益率は低いながら安定しているようにも見える。ただセグメント別の利益を見ると、構造的な問題が浮き彫りになる。15年から19年までの連結営業利益の合計は81億円余りだが、不動産事業の営業利益合計は83億円余りと、全体の営業利益を上回っている。グループ全体の利益は実質的に不動産事業で生み出していることがわかる。

 次いでキャッシュフローを見てみよう。営業CFは常にプラスで、投資CF、財務CFがほぼマイナスである。事業で生み出した利益で投資と借入金の返済を行っているという、一般的な図式だ。問題はそのキャッシュを生み出す源泉が、圧倒的な中核事業である新聞関連事業ではなく不動産事業であること。不動産事業で稼ぎ、借入金を返済していくのであれば、それはもはや不動産屋である。

 財務バランスを見ると、借入金は少なく現預金は豊富であり、まだまだキャッシュリッチな企業に見える。しかしそれは、グループ企業の統合や清算、譲渡、資産の売却など事業リストラの帰結として内容が維持されているのであり、その路線を突き進めば当然ながら選択肢は狭まるのみだ。本業での利益回復が見込めず、新たな収益の柱が育っていない状況では、臨界点を超えた途端に財務内容は急速に悪化することになる。その日は着実に近づいている。

岐路に立つ新聞事業

 今回の検証で浮かび上がってきたのはオールドメディアの苦境と情報ビジネスの難しさである。ネット社会の到来でメディアの定義そのものが変わった。人々の情報に接する窓口も多様化し、新聞や雑誌、テレビやラジオなどの旧来型メディアは急速にその地位を失い始めた。本来ならば基盤をもつ優位性を生かし、新たな情報ビジネスのモデルを構築しなければならないのだが、それに成功した旧来型メディアはほとんどなく、いずれもジリ貧状態を抜け出せずにいる。テクノロジーの進展でマイクロペイメント(1記事いくら)の可能性は出てきたが、収益性の改善は図れても売上高の増加につながる可能性は低いだろう。それはオールドメディアのビジネスモデルが、いかに強固だったかの裏返しでもある。

 異業種への参入や新しい情報ビジネスの試みが、いずれも鳴かず飛ばずに終わったことで、縮小均衡を余儀なくされているのが西日本新聞社の実情だろう。同社に限ったことではないが、「記者クラブ制度」や「専売制度」「軽減税率の適用」など自らに有利な既得権は受け入れる一方で、ほかの既得権にはジャーナリズムを振りかざす新聞社の欺瞞は、すでに見透かされている。本来なら新聞社には、新たな情報ビジネスモデルを構築するチャンスが、いくらでもあったはずだ。しかし第4の権力といわれた地位に胡坐をかいてきたことで「ゆでガエル」状態に陥ってしまったのではないか。

 西日本新聞社もメディアを軸とした新たな情報ビジネスのモデルが必要だと思うが、現在の路線は儲からない新聞事業にしがみついた戦略にしか見えない。豊富な資産背景を活用し、新たなモデルを構築するのか、それとも不動産業に収斂していくのか、ブロック紙の雄の今後に注目したい。

(了)
【緒方 克美】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:柴田 建哉
所在地:福岡市中央区天神1-4-1
設 立:1943年4月
資本金:3億6,000万円
売上高:(19/3連結)507億8,600万円

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