「川崎大資=塩田大介」の実像~粉飾と偽造、尽きぬ欲望・虚栄心の果て(前)
-
東京地検特捜部は8月13日、福岡市の保育事業コンサルタント・川崎大資容疑者(51)を、内閣府の企業主導型保育事業をめぐる補助金4億8,000万円を騙し取った疑いで起訴した。同事業に絡む融資詐欺で7月に起訴されたのに次いで2回目。川崎容疑者の旧名は「塩田大介」。「塩田」時代の川崎容疑者は、1990年代にマンションデベロッパー「ABCホーム」を設立し、新築マンションの売れ残り物件売買で同社を急成長させた。
しかし、急成長の影で取引先からのキックバックや脱税などの違法行為を行っていたことが明らかになり、2013年には競売入札妨害容疑で実刑判決も受けていた。「懲りない男」を突き動かすものは何だったのか。
■東京地検特捜部を動かした初めてのネットメディア
データ・マックスが「川崎大資容疑者(51)=塩田大介」(文中では以後、川崎容疑者と表記)の疑惑を初めて報じたのは今年5月15日。NetIBNEWSで連載した「企業主導型保育事業の闇」シリーズの1回目だった。その後、7月まで20回にわたって川崎容疑者と同容疑者が代表を務めるWINカンパニーの助成金詐欺疑惑を報じ、6月27日には川崎容疑者の関係先に東京地検特捜部が家宅捜索に入ったことをスクープしていた。
それまで様子見を続けていた新聞社やテレビ局も、7月3日に川崎容疑者と他2人が横浜幸銀信用組合から1億990万円を騙し取った疑いで同特捜部に逮捕されるとようやく重い腰を上げ、データ・マックスにはマスコミ各社から問い合わせが殺到。NetIBNEWSは「東京地検特捜部を動かした初めてのネットメディア」という栄誉(?)も得るかたちになった。
川崎容疑者は8月13日に、内閣府の企業主導型保育事業をめぐる助成金4億8,000万円を騙し取った疑いで特捜部から追起訴されており、8月末時点でも秋元司内閣府副大臣の関与も含めた詳しい調べが進められているとみられている。さらに、内閣府から同事業を委託された公益財団法人児童育成協会は、川崎容疑者が助成金申請を代行した12施設に対し、計約12億円の返還を命じていることもわかった。
■うまい話には必ずウラあり~警句を忘れた企業経営者たち
川崎容疑者が助成金詐欺のターゲットとした企業主導型保育事業は、一向に進まない待機児童解消策として、主に企業の従業員向け保育所を整備する目的で2016年に創設された。従業員の子どもを預かる保育所を開設した際などに内閣府の認定を受けることで、認可保育所並の手厚い助成金が交付されている。
待機児童解消や喫緊の課題でもある少子化を食い止めるために、助成金を支出してでも企業内保育所を増やすという目的自体は一定の評価はされてしかるべきだが、いつしか実績(=件数)を追うことが目的化していったのは、この種の助成金制度が抱える宿痾(しゅくあ)ともいうべきか。助成金支出の仕組みは驚くほどずさんで、その「ザル審査」(記事参照)に目を付けたのが川崎容疑者ら「川崎一派」(育成協会内での呼称)だった。
川崎容疑者は、入念に用意されたプレゼン資料と不動産営業時代から鍛え上げた「語り」のテクニックで数十社の企業を保育所設置企業に引きずりこみ、自らが描いた助成金詐欺ビジネスの一端を担わせた。時には事業を所管する内閣府の秋元司副大臣との深い関係を誇示して信用させ、助成金審査の甘さをアピールして「丸儲け」だとうそぶく。うちに保育所はいらない、と渋る企業には「企業主導型保育事業は定員の半数以上を企業枠としなければならないが、自社で使いきれなかった場合は周辺企業への譲渡・販売が認められている」として、人身売買のごとく子どもたちの定員を「ひと枠いくら」で売れることまでアピールした。
こうした川崎容疑者の騙しのテクニックにはまった企業らが完全な被害者かといえば、はたしてどうなのか。川崎容疑者はプレゼンの場において「助成金を騙し取る」と明言こそしていないものの、保育園ビジネスはとにかく儲かる、自分たちにまかせておけば必ず利益を出す、自分たちのバックには政治家がいるから大丈夫だ、などと、ひたすら事業の収益性の高さについて熱く語っていたという。そこには、なぜ企業主導型保育事業が必要なのか、日本において子どもを育てながら働くことがどれだけ難しいのか、といった視点がほとんどなく、むしろ川崎容疑者に応じた企業側もそういったことに関心がなかったのではないか。
国からの補助金を低リスク・低負担で受けられる制度がある。うまくいけば丸儲け――その1点に飛びついた企業があったとすれば、いかな抗弁をしようとも「浅ましかった」という批判は免れまい。詐欺師たちは人のちょっとした欲望に付け込み、付け入り、欲を肥大させたうえでそこから滴り落ちる果実を根こそぎ強奪する。「うまい話には必ずウラがある」とは単なる警句ではなく、古今東西ビジネスを営むうえでの的を射た戒めでもあるのだ。
■華麗な「粉飾」経歴書
8月27日現在、いまだ東京地検特捜部において調べが進められている川崎容疑者は、担当弁護士に対して「保育園事業は懲りた。(刑務所から)出たら、また不動産事業に戻ってやり直す」と話しているという。まさに「懲りない人物」の面目躍如であり、ある種の逞しささえ感じるこの人物はいったいどのような経歴の持ち主なのか。
他メディアでは「19歳の時に大阪から上京して不動産業界に入った」とされることが多いが、川崎容疑者自身は特別取材班に対して「大阪で暮らしたのは幼いころの一時期だけ。あとは、ほぼ東京で生活していた」と語っており、真相は不明だ。実際、関西出身者特有の関西弁で話すクセや関西なまりなどはなく、話し言葉は関東出身者のそれに近いものがあったのは確かだ。
1994年、川崎容疑者が25~26歳の時に(株)ABCホームを設立し、2000年に入って新築マンションの売れ残り物件を安く買い取って通常価格で販売する事業に乗り出すと、これが大当たりする。2007年ごろには150億円以上を売り上げるなど急成長したABCホームだったが、同社の会長を務めていた2008年に法人税法違反で有罪判決を受け、競売入札妨害では実刑判決(2013年)を受けている。2017年に、積水ハウスが東京・五反田の一等地約600坪をめぐって地面師グループに約63億円を騙し取られた事件の主犯格「カミンスカス操」被告も、かつては川崎容疑者の部下としてABCホームに在籍していたことがある。
2010年ごろには、横綱・朝青龍が引退する引き金となった殴打事件の現場にいたことで週刊誌に名前があがり、さらには凶悪な半グレ集団・関東連合の資金源と噂され、タレントのGacktや酒井法子などの芸能関係者から有名スポーツ選手まで、華麗な夜の人脈を誇るなど人生の絶頂期ともいえる日々を迎えた。
特別取材班は、川崎容疑者がこれまでたどった足取りについて、内容の異なる複数の「経歴書」を入手している。これらは企業主導型保育事業への参入企業を募るプレゼンで使用されていたもので、川崎容疑者本人が作成したとされる。後編では強烈な自己愛と虚栄心が読み取れる「粉飾経歴書」を、一部抜粋して掲載したい。
(特別取材班)
(つづく)関連キーワード
関連記事
2024年11月20日 12:302024年11月11日 13:002024年11月1日 10:172024年11月22日 15:302024年11月21日 13:002024年11月14日 10:252024年11月18日 18:02
最近の人気記事
おすすめ記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す