【飯塚事件のその後】再審請求10年の飯塚事件~「疑惑の死刑」責任者たちの今(5)
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冤罪死刑疑惑に真摯に向き合う者は皆無
「死刑執行について」に押印した残り3人、富山氏、柿澤氏、大矢氏は法務省のプロパーだが、全員が久間氏の死刑執行を決裁後、「指定職」まで出世していた。指定職とは、一般職の国家公務員のなかでも責任が重大なものとして指定され、特別な俸給表を適用される官職だ。
とくに富山氏は矯正局長まで昇り詰めている。矯正局長はもともと、検察官が就いていたポストで、2013年に西田博氏が法務省のプロパーとしては戦後初めて矯正局長に就任して話題になった。富山氏は、法務省のプロパーとしては戦後2人目の矯正局長だ。指定職の俸給は1号俸から8号俸まで8つのランクがあるが、矯正局長の俸給は4号俸。現行の指定職俸給表によると、その月額は89万5,000円だ。
富山氏は2018年9月に辞職しているが、再就職したという情報は確認できない。現在は家族との時間や趣味の時間を大切にしているのかもしれない。
一方、柿澤氏は久間氏の死刑執行を決裁後、九州、関東の各地方更生保護委員会で委員長を務め、2011年12月、任期の満了により退職している。九州、関東の各地方更生保護委員会の委員長はいずれも指定職で、俸給は2号俸。現行の指定職俸給表によると、その月額は76万1,000円だ。
現在、柿澤氏は更生保護に関連する多様な業務を営む「ひまわりサービス」という会社の代表取締役の地位にある。1988年設立の同社は、ほかにも確認できただけで7人の法務省保護局出身者が取締役として名を連ねており、法務省保護局の有力な再就職先であるようだ。
一方、大矢氏は久間氏の死刑執行を決裁後、北海道、九州、近畿の各地方更生保護委員会で委員長を歴任し、2018年3月に辞職している。先に触れたように九州地方更生保護員会の委員長は指定職で、俸給は2号俸だが、近畿地方更生保護員会の委員長も指定職で、俸給は1号俸。現行の指定職俸給表によると、1号俸の俸給月額は70万6,000円だ。
現在、大矢氏は更生保護施設「更新会」で評議員を務める。ただ、同施設の職員によると、「年に1、2回の会議に出席するだけ」とのことだ。
柿澤氏と大矢氏には、電話で久間氏の死刑執行が間違っていなかったと今も思うかを直接聞くことができた。しかし、柿澤氏は「個別の案件ですので、コメントはできないと思っています」と回答を拒否。大矢氏も「個別具体的なことは何も申し上げられないんです。公務員なので、守秘義務もありますし。10年も前のことなので、正直、その人の名前も記憶にないです」と断ってきた。坂井氏に比べると、2人の口調は落ち着いており、やましい様子は感じられなかった。法務省プロパーの幹部官僚たちは死刑執行の決裁の際、名前を貸すだけのような感覚で決裁文書に押印しているのかもしれない。
いずれにせよ、今回、久間氏の死刑執行を決裁した責任者たちを取材し、久間氏に冤罪の疑いが指摘されていることに真摯に向き合っているように思えた人物は1人もいなかった。日本の死刑制度の運用は、かくもいい加減なものなのだ。
(了)
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