2024年12月23日( 月 )

【飯塚事件のその後】再審請求10年の飯塚事件~「疑惑の死刑」責任者たちの今(2)

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現検事総長も「疑惑の死刑」に関与

 では、そもそも、久間氏の死刑執行の責任者は誰なのか。法の定めに基づき、死刑は法務大臣の命令により執行されるが、久間氏の死刑執行を命令した法務大臣は、現在も衆議院議員・森英介氏だ。森氏は当然、久間氏の死刑執行に大きな責任がある。だが、実際には、死刑囚1人ひとりの死刑執行の可否を法務大臣がイチから検討するわけではない。

 裁判記録を精査し、死刑執行の決裁文書を起案するのは法務省の刑事局付検事だ。最終的な死刑執行の決裁も法務省の幹部官僚たちの主導で行われている。この現状に鑑みれば、法務省の幹部官僚たちが死刑執行の実質的な最高責任者だ。

現検事総長の稲田伸夫氏も「疑惑の死刑」を決裁した1人(法務省HPより)
現検事総長の稲田伸夫氏も「疑惑の死刑」を決裁した1人(法務省HPより)

 そこで、法務省に情報公開請求したところ、久間氏の死刑執行が決裁された際に作成された2つの文書を入手できた。文書名は「死刑事件審査結果(執行相当)」と「死刑執行について」。これにより、久間氏の死刑執行の実質的な最高責任者である法務省の幹部官僚たちの名前などが特定できた。

 まず、「死刑事件審査結果(執行相当)」には、前出の森法務大臣と佐藤剛男法務副大臣がサインし、法務省の幹部官僚である次の5人が押印していた。

・小津博司氏(事務次官)
・稲田伸夫氏(大臣官房長)
・中川清明氏(大臣官房秘書課長)
・大野恒太郎氏(刑事局長)
・甲斐行夫氏(刑事局総務課長)

法務省から開示された「疑惑の死刑」の決裁文書2点。押印により責任者が特定できた
法務省から開示された「疑惑の死刑」の決裁文書2点。押印により責任者が特定できた。
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 法務省の人事制度は独特で、下部機関である検察庁の検察官が省の主要なポストの大半を占めるが、この5人も検察官だ。このなかで目を引くのが、稲田伸夫氏。現在、法務・検察のトップである検事総長を務める人物だ。

 稲田氏は東大法学部出身。久間氏の死刑執行を決裁後、法務省で刑事局長と事務次官、検察庁で仙台高検検事長と東京高検検事長を歴任するという王道の出世コースを歩み、昨年7月に検事総長に就任した。1956年8月生まれで、現在63歳。検事総長の定年は65歳だが、近年、検事総長は2年ほど務めて勇退するのが慣例なので、稲田氏の在任も長くて、あと1年程度だろう。

 最高裁が作成した「裁判官・検察官の給与月額表(平成31年4月1日現在)」(以下、給与月額表)によると、検事総長の年収は2,941万158円だ。

 では、稲田氏は、久間氏の死刑執行は間違っていなかったと今も思うのか。特定記録郵便で取材を申し込んだうえ、回答をもらうために電話したところ、最高検企画調査課の男性職員が「『個別事件に関する事柄で、取材をお受けすることができない』という回答になります」と事務的に告げてきた。

(つづく)
【片岡 健】

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