鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗
高市早苗首相は1月23日召集の通常国会冒頭で衆院を解散しました。これまで「経済対策最優先」と主張してきた高市首相が、予算の成立が後回しになるタイミングでなぜ解散に踏み切ったのでしょうか。
今回のISF通信では、この高市首相の異例の解散・総選挙の背景とその後の日本の選択について、考えてみたいと思います。
1.高市首相がこの時期の解散に踏み切った背景とは何か
高市早苗首相は1月19日の記者会見で、1月23日に召集される通常国会の冒頭で衆院を解散し、衆院総選挙を1月27日公示、2月8日投開票の日程で実施する決断を表明した。
予算案を審議する通常国会の冒頭解散で、解散翌日から投開票まで16日間という史上最短の日程による総選挙は極めて異例だ。このままでは予算案の年度内成立は難しい。また、投票日は2月8日という寒い時期で、とくに北国や被災地では投票が難しく、受験生にとっても最悪のタイミングでの解散となった。
高市首相は、衆議院解散の理由について、「高市政権の在り方と、進めようとしている大きな政策転換について、国民に是非を問う必要がある」「高市早苗が内閣総理大臣で良いのかどうか(を問う)」と語った。
この超異例の衆議院解散・総選挙実施には、首相による解散権(憲法7条)の濫用との批判だけでなく、「自己都合解散」や「疑惑隠し解散」との声が上がっている。
高市首相は衆院選での獲得議席の目標については「与党で過半数」という最低限のラインしか示さなかった。しかし、最近の世論調査での自分に対する高支持率(約70%)を前提に、あわよくば自民単独での過半数獲得を狙って解散に踏み切ったものと推測される。
今回の衆院選には、約855億円という巨額の税金が投じられる。国会で議論を尽くさず、「解散の大義」を欠いたまま国民に「白紙委任」を迫る姿勢は、まさに国益より党利党略・私益を優先する暴挙と言わざるを得ない。
高市首相が突然の解散宣言をするに至った背景には、次の3つの理由が考えられる。
第一に、自民党と統一教会の癒着に関する不都合なスキャンダルを封印するためだ。韓国では昨年9月23日に、「世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)」の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が、不正請託、贈賄、業務上横領など4つの容疑で逮捕されるという大きな出来事があり、それに関連して出された世界平和統一家庭連合の内部文書とされる「TM特別報告書」のなかで日本との関係が取りざたされている。
その報告書では、高市早苗氏の名前が32回、安倍元首相についての記述は約500回あり、萩生田光一氏ら290名の自民党の国会議員が何らかの関連をもっていたという事実が明記されていた(Tansaの「TM特別報告書」を参照)。
第二に、自民党と連立している日本維新の会の国保逃れの疑惑を隠蔽するためである。日本維新の会の一部の地方議員(現時点で4人)が、一般社団法人の理事に就くことで国民健康保険の支払いを軽減したとされる「国保逃れ疑惑」が浮上している(「news おかえり」2026年1月9日放送分より)が、調査対象の議員や首長ら約800人のうち、半数近くが社保に加入していた。日本維新の会に対しては、自己申告によるおざなりな調査で幕引きを急ぐようでは不信が深まるばかりだ、との指摘もある。
第三は、高市首相の台湾有事における存立危機事態発言で日中関係が急速に悪化し、日本経済も冷え込み、インフレが進んでいる。とくに中国によるレアアースの輸出規制は日本経済に大きな影響を与えている。国会が始まればこれらが追及されるため、解散に踏み切ったのだと思われる。
その後、高市早苗首相が開いた政治資金パーティーをめぐり、旧統一教会の関連団体がパーティー券を購入していた疑惑が『週刊文春』によって報じられた。高市首相が各党首・代表による討論番組(NHKの日曜討論)をドタキャンした背景も、れいわ新選組の大石あきこ共同代表がこの問題を追及しようとしていたことが大きかったものと思われる(2026年2月2日放送「news every.」より)
2.総選挙の最大の争点とは何か~隠される改憲とワクチン大被害
今回の総選挙では、消費税減税が1つの大きなテーマだといわれている。
確かに、国民がいま最も関心をもっているのは物価高による生活苦である。高市首相はこれまで消費税減税は手続きが煩雑で時間がかかるとして野党側からの要求をはねのけていたが、解散表明後は、自民党は食料品の消費税ゼロを2年間限定で「行う」と言い始め、実際に実施するのかを「検討する」と曖昧にしたまま、国民へのバラマキで票稼ぎをしようとしている。
これに対し、消費税廃止を一貫して主張してきた「れいわ新選組」や、新しく原口一博氏が共同代表となった「減税日本・ゆうこく連合」などは消費税廃止を掲げている。他の野党もチームみらいを除いて何らかの減税を主張しており、消費税減税のための財源をどこに求めるのかめぐって論争が続いている。
前回の参議院選挙で参政党が躍進した要因の1つが「移民問題」であったが、今回も参政党や日本保守党は、この問題を大きな争点にしている。その背景には、非正規労働者の増加による中流階級の貧困化があり、その不満のはけ口が外国人に向けられている側面がある。実は外国人労働者の受け入れ拡大を始めたのは小泉政権の時であり、それ以来、自民党政権が推進してきたものであるのに、これまで言葉を濁してきた経緯がある。
移民問題の原因が、国民の貧困化と少子化であることは明白だ。それを根本的に解消するためには、子ども手当増額や保育所充実、高校・大学の授業料減免や奨学金の拡充(金利なしの無償援助への移行)、非正規雇用の解消など本質的な対策が必要である。そうしない限り、労働市場での人手不足も解消せず、排外主義的な動きも収まることはない。
私自身が今回の総選挙で消費税廃止の他に隠されている最も重要な問題だと考えるのは、改憲・緊急事態条項の是非と戦争か平和かの問題、そして新たなパンデミックとワクチン接種の問題だ。
自民党憲法改正推進本部は、「改憲4項目」(1)9条の改正、(2)緊急事態条項の追加、(3)教育の充実(無償化)、(4)参議院の合区解消、を掲げている。
このうち、緊急事態条項は岸田政権以降、頻繁に開催される憲法審査会のなかで、とくに重要視されているもので、ナチス時代の全権委任法に匹敵するような行政府への権力集中(独裁)を可能にするものである。
※国家緊急権(emergency powers):戦争、内乱、大規模な災害や疫病・テロリズムなど、国家の平和・独立・公衆衛生を脅かす緊急事態に際して、通常の統治秩序では対処が困難な場合に、憲法条項の一時的停止措置を講じることを認めた憲法上の権限。
それに関連して、これまで新型コロナワクチン接種は義務ではないと言われながらも、日本社会の同調圧力で事実上強制されてきた。今回の総選挙の結果次第では改憲が発議される可能性大だ。もし緊急事態条項が導入されれば、新たなパンデミックが起きた場合、ワクチンの強制接種も可能になる。
この問題を優先課題に掲げる唯一の政党、原口一博氏の減税日本・ゆうこく連合が現有5議席あるいは比例で2%得票を確保して、政党要件を満たせば、これから国政の大きなテーマになるものと期待される。
3.総選挙後の政界再編と日本の選択~戦前と同じ過ちを繰り返してはならない~
当初は高市首相の高い支持率を当てにしての解散であったが、解散宣言直前から新たな動きが加わった。
すでに自民党と26年間も連立を組んでいた公明党が政権を離脱し、自民党と日本維新の会との連立になっていた。自民党にとっては、その公明党の創価学会票が選挙で自民党から離れるだけでも打撃を受けると指摘されていた。その創価学会票が他党に流れるとより深刻な影響を与えることになる。そうしたところに、衆議院解散後に立憲民主党と公明党が衆議院限定とはいえ合併し、中道改革連合が結成された。これで創価学会票の6割以上が中道に流れれば、立憲出身候補の小選挙区での当選可能性が高まり、従来言われた自民・維新の圧勝は難しくなるとの見方も出てきた。
もちろん、依然として自民・維新の与党で過半数獲得は可能だが、私が注目するのは中道改革連合への対抗として生まれた原口一博氏の減税日本・ゆうこく連合、前回の参院選で躍進した参政党、国民民主の動きだ。
減税日本・ゆうこく連合が、消費税廃止だけでなく、ワクチン接種の問題を中心に戦い、政党要件を満たして国会に戻れば、国政の大きなテーマになることは間違いない。国民民主は連立入りするとの観測もあったが、連合の反対で難しく、現在は中道改革連合との全面対立は避けているようだ。
参政党の神谷宗幣代表は、今回の総選挙では高市派の自民候補を支援し、反高市のリベラル派候補には対抗馬を立てると当初発言していた。しかし、実際には高市派候補の選挙区にも参政党候補をかなり立てたので、自民党票を奪う可能性が出てきている。その結果、自民・維新の与党で過半数割れの事態も起こり得る状況となっている。総選挙の結果次第では、参政党や国民民主党の連立政権入りで政局が大きく動くかもしれない。
それとは逆に、野党と与党が接近した場合、中道改革連合が新たな動きをする可能性がある。公明党の斉藤代表が、石破茂前首相に中道改革連合への協力・参加を呼びかけていたことが注目される。これは、総選挙で中道改革連合が善戦して与党を過半数割れに追い込むことができた場合に、総選挙後の首班指名で中道改革連合が石破氏を担ぎ、石破氏が有志10名以上を引き連れて自民党を離党すれば、国民民主党やれいわ新選組、共産党、社民党なども決戦投票で石破支持に回り、最終的にねじれ政権交代が実現する可能性もあり得るのではないか。
しかし、このようなかたちでの政権交代が実現するためには、まず総選挙で与党を過半数割れに追い込むこと、石破氏が自民党の10人以上の有志議員を引き連れて離党するだけの覚悟があること、が絶対条件である。
ただ現在の終盤に入った選挙情勢では、与党ではなく自民党単独での過半数獲得や中道改革連合の大幅後退(比例名簿順位での公明党候補の上位独占の影響もあって、公明微増、立憲激減)、自民党との連立を表明している参政党の躍進といった選挙結果予想が、大手メディアによって次々と伝えられている。
今回の衆院選で、自民党は派閥の裏金問題に関わった42人を比例名簿に登載する一方で、石破茂氏に近い議員(岩屋毅元外務大臣や村上誠一郎前総務相、沖縄北方担当相だった伊東良孝氏、文部科学相だった阿部俊子氏など)が比例順位で冷遇され、当選が危ぶまれる状況となっている。
もちろん、こうしたメディア報道が実勢をそのまま正確に反映したものであるかどうかは不確かである。しかし、総選挙後に、自民党・維新の会の与党2党に、参政党と日本保守党、場合によっては国民民主党(支援組織の連合の芳野友子会長が自民党との連立に反対している)も加わったかたちでの、改憲・大増税・戦争国家にむけた保守大連立政権誕生の可能性がでてきていることだけはたしかである。
はたして、本当に国民はそのような選択を望んでいるのであろうか。取り返しのない事態を招く結果になって後から後悔することのないようにするためにも、いまの時点で国民1人ひとりが真摯に自分の人生と日本という国家の在り方・進路を問い返すことが求められている。
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