「放射能でおもてなし?」~安全性を疑問視する国内外からの声が急増!(4)
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元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授 村田光平 氏
オリンピックを返上、福島事故の解決に最大限の力を注ぐ
――先生は、終始一貫、「人道的立場」から、「放射能五輪」開催に警告を発し続けておられます。人道的とはどういう意味でしょうか。
村田 最近は、関電を初め、目に余る不祥事が続き、またオリンピック開催も近づき、より多くの人に、真の危険性を知っていただきたい余り、少し発言が過激になってしまうこともございますが(笑)、私の訴えはあくまでも人道的立場に基づくものです。人道的とは「人として守り行うべき道にかなうさま」のことを言います。
先ほども申し上げましたように、現在の福島の状況は収束からは程遠く、事態の悪化すら懸念されております。このような時に、「人として守り行うべき道にかなうさま」とは、はっきりしております。日本がすべきことは、東京オリンピックを返上し、福島事故の解決に最大限の力を注ぐことです。
ところが今の動きはまったくベクトルが逆を向いています。「反人道的」と言っても過言ではありません。危険極まりない「復興五輪」が政治の中心に据えられ、オリンピック競技(福島では、野球、ソフトボール、サッカーが行われる)が汚染地域で設定されています。すなわち、危険な放射能環境で開催されることを知らずに日本にやってくる世界の人々は放射線被爆に晒される可能性が強いのです。
また、オリンピック選手村では、約1,500万食分の食材は福島県をはじめとする3.11原発事故被災3県の食材を優先的に提供し「復興五輪」をアピールすると日本オリンピック委員会は発表しています(2018.7.24 読売新聞夕刊)。しかし、2019年3月19日現在、アメリカは福島の野菜など14の県の食品を輸入停止しているのをはじめ、8つの国が日本の食品の輸入規制を続けています。また、EU各国など多くの国で、日本からの輸入食品には、政府作成の放射性物質検査証明書を要求しているのです。
今、被曝被害が「ない」といくら政府が強調しても、人々が被曝被害と思わざるをえない現象が次から次へと現れてきています。そこで、被曝の安全性をアピールするために、子どもや若い夫婦から始まって、政治家、著名人、有名スポーツ選手、有名歌手、有名タレントなどが、次々と被曝リスクの高い、福島関連イベントに動員されています。
このような動きに対して、先に登場したアメリカの原子力専門家のアーニー・ガンダーセン氏は「日本政府が、東京オリンピックの開催によって、『すべては正常である』という虚像をつくり出すために人々をこのように被曝させることの重要性」を鋭く指摘しています。
日本政府はもともと最小限に設定された避難地域を、懸念すべき被曝状況が続いているにも拘わらず、次々と無謀にも解除し、住民を帰還させる方針を進めています。そのために、5万人ともいわれる避難者も次々と住宅補償などを打ち切られました。
国際的には、放射能災害があった場合に住民は、自然放射線を除いて、年間1ミリシーベルトしか放射線を被曝してはいけないと規定されています。しかし、福島の帰還政策により、帰還を促された地域では、住民は20ミリシーベルトまでの被曝を我慢するように求められています。このように、被曝被害「ゼロ」論キャンペーンは、自殺的あるいは自滅的な本質をもっています。
天地の摂理は、不道徳の永続を決して許しません
――時間になりました。最後に、読者にメッセージをいただけますか。
村田 今、東京オリンピックと原発は表裏の関係にあります。原子力緊急事態宣言が解除されない」状況下でのオリンピックなど本来は問題外のはずです。それでもビジネスイベントとしてのオリンピックに投資し、特需を仕掛け、目先の経済拡大効果を優先し、参加選手・関係者・観客が被曝することは承知の上で、健康的マイナスには一切目をつぶることに、国際オリンピック委員会(IOC)も日本政府も大きく舵を切ったのでしょうか。
私は直面する危機への真摯な対応を促す意味で、国際オリンピック委員会(IOC)のThomas Bach会長と安倍晋三内閣総理大臣に書簡をお届けしました。
私の持論ですが、天地の摂理(哲学により究明される歴史の法則)は不道徳の永続を決して許しません。現に、不道徳を象徴した「新国立競技場」建設は白紙撤回に追い込まれました。
想像を超える“福島の苦しみ”を忘れさせる不道徳な東京オリンピックからの「名誉ある撤退」こそ、日本にとって唯一残された、そして最も適切な選択なのです。
福島の教訓は「経済重視」から「生命重視」への移行です。女性がその担い手となって動き出すことが期待されます。そして、今こそ日本に、そして世界に、再び「倫理・道徳」を取り戻すチャンスと私は考えています。2008年以来訴えている国連倫理サミットの開催を改めて求めてゆく所存です。読者の皆さまにも、このことをご理解いただき、引き続きご支援を賜れれば幸いです。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
村田光平氏(むらた・みつへい)
1938年東京生まれ。1961年東京大学法学部を卒業後、2年間外務省研修生としてフランスに留学。その後、分析課長、中近東第一課長、宮内庁御用掛、在アルジェリア公使、在仏公使、国連局審議官、公正取引委員会官房審議官、在セネガル大使、衆議院渉外部長などを歴任。96年より99年まで駐スイス大使。99年より2011年まで東海学園大学教授。現在、日本ナショナル・トラスト顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会顧問、東海学園大学名誉教授、天津科技大学名誉教授。
著書として、『新しい文明の提唱‐未来の世代へ捧げる‐』(文芸社)『原子力と日本病』(朝日新聞社)『現代文明を問う』(日本語・中国語冊子)など多数。
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