殺人マンション裁判の顛末~毀損された強度・資産価値を適正な状態に戻せ!(1)
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福岡県久留米市の都心部に建つ分譲マンションに関する裁判が和解を以って幕を閉じた。平成8年に竣工したこのマンション(鉄骨鉄筋コンクリート造15階建て)は、引渡し1年後から立体駐車場のパレット脱落、躯体コンクリートの剥落・落下などの欠陥が発生した。
対応策をめぐっては、管理組合と施工会社である日本を代表する最大手ゼネコン鹿島(以下、K建設)との間で協議が重ねられた。平成18~19年にかけては大規模な調査も実施され、信じ難いほどの施工上の瑕疵が露わになった。
不利を悟ったK建設が管理組合との協議や対応を一方的に打ち切ったため、管理組合は行政庁である久留米市に救済を求めた。この間、設計事務所による構造計算の偽装も発覚し、建築確認行政庁たる久留米市の責任もクローズアップされたため、久留米市は逃げ腰(久留米市とK建設は深い関係にある)となり、誠意ある対応を行わなくなった。いわば「捨て子」状態となった管理組合および区分所有者は、平成26年6月、K建設や設計事務所に建替え費用を求める訴訟を起こすに至った。
裁判の特徴
この裁判は、分譲会社が数々の瑕疵発覚後に解散したこと、設計と施工の両方に偽装や手抜きがあったこと、施工が下請業者に丸投げされていたこと(現在の法律では工事の丸投げは禁止)、原告が管理組合か区分所有者かという問題、区分所有者のなかに分譲会社の一族がおり数戸を所有していたこと、このマンションの工事に携わっていた現場担当者が管理組合相手に情報を高値で売り付けようとしたこと、提訴前に依頼した弁護士が次々に代わったこと(辞任および解任)などといった事情があり、原告である区分所有者は大きなハンディキャップを背負った状態での裁判だった。
最初の施工ミス発覚から20年もの時間を費やした欠陥マンション裁判。被害者である区分所有者は納得のいく結果を得られたのか?
提訴から5年という異常な長さの裁判となった理由は?この裁判の原告(区分所有者)に対して技術支援を行った構造設計一級建築士仲盛昭二氏に、弊社代表取締役・児玉直が話を聞いた。
――昨今、我が国における大地震の発生確率について、国も警鐘を鳴らしています。身近なところでは熊本地震で大きな被害が出ています。以前は、震度5以上の地震の発生は稀だったと思いますが、阪神淡路大震災以降は全国的に震度5以上の地震が増えたように思います。
仲盛昭二氏(以下、仲盛) 日本は地震が活発に起きる時期に入っているのだと思います。ですから、国も国土強靭化計画を打ち出し国民に警告しています。また、台湾の地震でビルが倒壊した映像は私たちに衝撃を与えました。台湾の倒壊したビルではコンクリートの内部に一斗缶が埋め込まれていたことが判明しています。実は、同じようなコンクリート内部への異物混入など手抜き工事のオンパレードだったのが、大手ゼネコンのK建設が施工した久留米市の欠陥マンションでした。
欠陥マンション裁判における問題点
――マンションに関する裁判の場合、管理組合が原告になるケースと区分所有者が原告となるケースがあります。それぞれの問題点はどういったことがありますか?
仲盛 区分所有者個人が訴訟をする場合は、1人や数人であれば意思の疎通もスムーズで迅速な行動が可能です。大人数の区分所有者が原告となる場合は、意思の疎通が難しくなり行動にも時間がかかります。
管理組合として訴訟を起こす場合、当然反対者もいます。提訴すること自体は過半数の同意で可能ですが、建替えには5分の4以上の賛成が、共用部分に手を加える大規模な改修を実施するためには4分の3以上の賛成が必要になります。裁判後の建替えや改修を考慮すれば、提訴時に5分の4以上あるいは4分の3以上の区分所有者の賛成を得て提訴することが不可欠です。
同じマンション内に住んでいる方に連絡をとることは比較的容易ですが、部屋を賃貸し区分所有者自身は別の場所に住んでいるケースもあります。場合によっては、転勤などで遠方に引っ越されている場合もあり、管理組合からの連絡手段が郵便や電話になるので、なかなか連絡がとれません。
裁判が長期化すれば、裁判期間中に区分所有者の方が不幸にして亡くなる場合もあります。家族が相続され配偶者・子どもなどの共有となる場合の問題点として、共有者の意思の統一が難しいことが挙げられます。各共有者に対して連絡が取りづらいことも先に述べた賃貸の場合と同様ですが、複数の所有者に連絡を取らなければならないので、なおさら厳しい状況となります。
裁判期間中にマンションを売却されるケースもあります。新しい区分所有者が裁判に賛成されるかどうかという問題もあります。もっとも、裁判が世間に知られれば、マンションの価格が下落することもあり、売却が難しくなる場合もあります。
――お話をうかがうと、欠陥マンションの裁判には問題点が多く、区分所有者にとってハードルが高いように感じますが。
仲盛 今述べた以外にも問題はあります。欠陥マンションの裁判、とくに建物の構造に起因する瑕疵が争点となる場合には、建築技術に関して被告のデベロッパーや建設会社と技術論を戦わせることができるかどうかがカギになります。
実際に何件かの建築裁判に関わってきましたが、弁護士は法律のプロではありますが、建築に関する知識はありません。法律である建築基準法すら理解できていません。弁護士から協力を依頼された建築士も建築構造の知識・経験はあっても、それを裁判にいかすことは不得手です。
(つづく)
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