柳井正氏が吠えた「このままでは日本は滅びる」(後)
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リスボン大地震でポルトガルは長期低落
ポルトガルは東日本大地震クラスの大地震に襲われた。1755年、日本では江戸中期の第9代将軍・徳川家重の時代だ。リスボン大地震までは、大航海時代で世界の海を制した国がポルトガルだった。ヴァスコ・ダ・ガマの世界一周は全盛時代の偉業だ。
しかし、大地震でリスボン市は壊滅。奇跡的に崩壊せずに残った建築物が世界遺産ジェロニモ修道院だという。大地震のダメージは、ポルトガル経済の基礎体力を奪い、産業は空洞化し、現在に至る「失われた250年」の長期衰退の道を歩むことになる。今や、産業といっても、水産、コルクぐらいしかない。まさに「発展途上国」である。
東日本大震災後の政治的対応に長期ビジョンを欠いたことから、柳井氏は、リスボン大地震後のポルトガルのように、日本は衰退の道を歩むと警鐘を鳴らしているのである。
柳井正氏は変人である。高校時代についたあだ名は「山川」。人が山といえば、川と答えたからだ。他人と同じことをしない。70歳の「オッサン」になっても、異端児ぶりはいささかも衰えていない。柳井氏の現状認識に首肯できる向きは多かろう。
ネット通販に足元を浸食される
足元が揺らいできたことも、柳井氏の危機感を掻き立てた。「アマゾン・エフェクト」の浸食だ。アマゾン・エフェクトとは、米ネット通販大手、アマゾン・ドット・コムが進出する業界で進行している変化や混乱を指す。影響は百貨店やスーパー、衣料品など伝統的な小売業に及ぶ。百貨店大手のシアーズ・ホールディングスなどの名門企業の経営破綻が相次いだ。
ファストファッション大手のフォーエバー21は今年9月、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し、経営破綻した。フォーエバー21を追い詰めたのは膨張するアマゾンだった。
1984年創業のフォーエバー21は、売り切ったら追加発注せず新しい商品を仕入れる「ファストファッション」と呼ばれるビジネスモデルで成長してきた。米国では1980年代からのショッピングセンター(SC)の大量出店に伴い、衣料品や生活用品のチェーン店が増えた。フォーエバー21はSCに出店することで店舗網を拡大した。
しかし、アマゾン・ドット・コムなどの台頭で、主戦場がネットに移ると、SCは消費者の支持を失い、次々と閉鎖に追い込まれた。
アパレル3強のうち、「ZARA(ザラ)」を手がける世界最大手、スペインのインディテックスや2位のスウェーデンの「H&M(エイチ・アンド・エム)」はファストファッションで急成長してきたが、フォーエバー21と同様、ネット通販に食われ苦戦している。
ネット通販の普及によって、消費構造は劇的に変化した。とりわけ2000年前後に生まれた世代は幼少のころから、スマホが生活の一部となった。スマホを通じて、売ったり買ったりすることが当たり前。わざわざ店に足を運んで衣料品を買わなくなったのだ。
そうするとネットで買えるような低価格な衣料を扱うチェーン店は淘汰されることなる。ユニクロで普段着に力を入れるファーストリテイリングは、小売業の”勝ち組”だ。ユニクロはショッピングモールの中核テナントとして引く手あまた。だが、米国で起きていることは4~5年後に日本でも同じ現象が生じる。
日本でネット通販が米国並みに勢力を拡大すれば、ユニクロはいまの競争力を保つことが難しくなる。柳井氏の危機感だ。
鴨長明の『方丈記』の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」を引いて、柳井氏は「まさに同じ、安定的な会社など幻想にすぎない」と言い切る。ポスト・ユニクロはどんなシナリオを描いているのだろうか。最も気になる点だ。
(了)
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