2024年11月23日( 土 )

アベノミクスがもたらした日本経済崩落 政治刷新による国家保障最低ライン引き上げ急務(4)

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経済学者・評論家 植草 一秀 氏

国家による最低保障ライン引き上げ

一般政府貸借対照表
一般政府貸借対照表
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 日本国憲法はすべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を認めておきながら、現実には、このレベルに届かない生活を強いられている者が多数存在する。生活保護制度を利用できる境遇に置かれている者の、生活保護利用率は国民全体の2%以下にとどまっている。ドイツやフランスでは生活保護利用率は10%に近い。

 貧困関連社会支出の対国民所得比はニュージーランドなどで10%水準であるのに対して日本は1%水準にとどまっている。すべての国民に保障する最低ラインが極めて貧困な状況に放置されたままなのだ。

 高齢化により、社会保障支出の激増が想定され、今後の財政運営は厳しさを増すことになる。しかしながら、こうした情勢にあるからこそ、税制において格差を是正する措置が積極的に講じられる必要がある。富裕層優遇税制の廃止などの所得税制度の適正化、法人課税の適正化によって、消費税減税、廃止を実現できる。

 また、下流に押し流された人々の所得環境を改善するために、最低賃金の大幅引き上げを敢行すべきである。企業利益は過去6年に倍増し、企業の内部留保資金は463兆円に達している。大企業は生産活動の果実の分配における労働分配を高めるべきなのだ。他方、法人企業の6割以上が赤字法人である現実を踏まえれば、中小零細企業に最低賃金の負担増を押し付けることはできない。政府が雇用助成金を支出して中小零細企業の最低賃金引き上げを補償する必要がある。

 財務省は政府債務が1000兆円を超えて、財政破綻の危機が迫っているとアピールするが、内閣府が公表している政府のバランスシートを見ると、2017年末時点で政府は負債を上回る資産を保有しており、39兆円の資産超過になっている。資産超過の政府が破綻する可能性はゼロである。虚偽の情報を流布して財政危機を煽るのは犯罪的行為だ。政府支出のなかに無意味な軍事支出膨張、不透明な土木建設支出が山積しており、利権まみれの裁量支出を切り込むことで、財政の健全性を失わずに、社会保障支出の拡充、生活保護制度の拡充を実現できる。

 利権財政を切り、社会保障などのプログラム支出を拡充することが、財政構造改革の主題であることを忘れてはならない。

主権者国民の選択と行動

 厚生年金、国民年金を受給できる相対的に恵まれた高齢夫婦世帯でも、老後の30年間を通じて2,000万円の蓄えが必要であるとの金融庁報告書が物議を醸した。国民年金しか受給できない世帯は不足資金が4,800万円に、年金を受給できない無年金世帯では不足資金が9,500万円に達することになる。これでは100年安心どころか1年でも不安な状況だ。

 最大の問題は安倍内閣がすべての国民に保障する最低ラインを引き上げることなど毛頭考えず、ただひたすら、巨大資本の利益極大化のためだけに行動していることにある。政治哲学上の言葉でいえば、すべてを市場原理に委ねて格差拡大を放置するリバータリアニズムが採用されており、国家が保障する最低ラインの引き上げを重視するリベラリズムが否定されていることが問題なのだ。

 最終的にどの道を選ぶのかを決定する権限をもつのは主権者である国民だ。国民が選挙を通じて自らの進路をどのように選択するのかがカギを握る。この意味で、次の衆院総選挙ではすべての主権者が選挙に参加し、リバータリアニズムに基づく政治路線を選択するのか、それともリベラリズムに基づく政治路線を選択するのかを定める必要がある。最後に問われるのは日本の主権者の選択と行動である。

(了)

<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)

 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、スタンフォード大学フェロー、早稲田大学教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、オールジャパン平和と共生運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続している。経済金融情勢分析を継続するとともに、共生社会実現のための『ガーベラ革命』市民連帯運動、評論活動を展開。政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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