5月23日の参議院本会議において、マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法案が可決、成立した。出席者多数決による決議・運営の円滑化、分譲事業者による管理計画の認定申請などマンション管理の適正化と、建替え以外の手法による新たな再生手法の創設が柱となる。区分所有法など関係する法律の改正は、一部を除いて2026年4月から施行される。
管理計画認定を後押し
改正法は、マンションの老朽化と住民(区分所有者)の高齢化という、いわゆる「2つの老い」問題に対応したものだ。マンションの大規模修繕や建替え、売却などには住民の意思決定が必要になってくるが、高齢住民の負担が大きいことで意思決定が進まない高経年マンションが増えることが予想されている。国土交通省によると、築40年以上のマンションは2023年末時点で約137万戸だが、10年後の33年末には約274万戸、20年後の43年末には約464万戸まで増えると予想されている。
外壁の剥落など管理が行き届かないマンションを減らし、必要な修繕や建替えを促すことは、喫緊の課題といえる。今回の改正では、マンション管理の適正化と新たな再生手法の創設の2つが大きな柱となっている。これらについて、順番に見ていこう。
まずマンション管理の適正化については、マンション管理計画認定制度の充実と管理業者管理者方式への対応、集会決議の円滑化、マンション等に特化した財産管理制度が挙げられる。管理計画認定制度の充実の具体策として、マンションデベロッパーが新築時に策定した認定管理計画を、新たにできた管理組合に引き継ぐ制度が導入される。管理計画認定制度は、マンション管理の質を高めるため、一定の基準を満たすマンションの管理計画を地方自治体が認定する制度。認定を受けると、固定資産税の減免などを受けることができる。
通常は、管理組合の管理者(理事長)などが申請をすることになる。管理組合が発足していない新築マンションの場合、現行ではマンションデベロッパーや管理会社が管理計画を策定して予備認定を取得し、管理組合の発足後に改めて予備認定から本認定に変更する制度がある。しかし、本認定への変更が進んでいないため、認定する自治体からも改善を求める声が出ていた。そこで、マンションデベロッパーも認定申請を可能にすることになる。
この措置によるマンション市場への影響は限定的だが、管理不全のマンションを減らす効果はあるのではないか、と評価する専門家の声もある。
集会決議、成立しやすく
管理業者管理者方式への対応としては、管理業者が管理組合の管理者を兼ね、工事など発注業者となる場合に、区分所有者への事前説明を義務化する。管理業者管理者方式は、高齢化による管理組合役員の担い手不足への対応のために、マンション管理業者を管理組合の管理者に選任できる制度。現行では修繕工事の際に、発注業者と受注業者が同一グループ会社になるなど、チェック機能が働かずに工事費用の高値発注など、区分所有者の不利益になる懸念があった。
高齢化や分譲マンションの賃貸住宅化などで、集会への出席や議決権を行使する区分所有者の数が減っている現状がある。区分所有法では、集会決議はすべての区分所有者および議決権を母数とした多数決が原則で、規定がなければ普通決議でもこの原則が適用される。たとえば、エントランスをバリアフリー化するような共用部の工事や外壁の剥がれを修復する工事でも、出席者数が決議に必要な数に満たなければ、たとえ出席者全員が賛成しても意思決定ができない。
そのため今回の改正で、建替えなどを除いて出席者による多数決で決議できるようにする。また、裁判所が認定した所在不明者については、すべての決議の母数から除外する制度を創設することで、修繕工事などの決議を行いやすくする。
マンション等に特化した財産管理制度は、裁判所が関与することを前提に、区分所有者の意思とは無関係に対処が可能になる制度だ。区分所有者の所在がわからなくなった場合や悪臭を放つゴミ屋敷状態など、周辺住戸や共用部に悪影響がある場合に、その専有部を裁判所が選任する管理人に管理させる。相続放棄されたマンション住戸や通常の意思決定が難しい高齢者などへの対応として、裁判所の関与で半ば強制的に問題への対応を行えるようにしている。
出席者の頭数の過半数で決議できるようになる。5人が議決権をもっている場合、これまでは2人欠席していても3人参加であれば、出席者全員(3人)の賛成が必要で2人の賛成では否決されていた。今回の改正によって出席者3人のうち2人賛成で過半数を上回るので可決する(出所=国土交通省資料から抜粋)
新たな手法の決議緩和
次に新たな再生手法の創設だ。建替え以外の手法である建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、取り壊しなどのケースについて、区分所有者および議決権の5分の4以上の賛成で実行することができるようにする。区分所有法ではこれらに対応する制度はなかったため、決議は全員同意が必要だった。なお、建物・敷地の一括売却とは、立地条件や地価の水準が低いなどの理由から、取り壊して建替えることが難しい場合に、建物と敷地をデベロッパーなどに売却するものだ。
建替え決議については、5分の4以上の賛成で実行することができるが、今回の改正により、建替え決議以外でも同様に5分の4以上に緩和する。ただ、それでも建替え決議において必要な賛成を得るには、時間と多大な労力が必要になってくる点が指摘されてきた。とくに、耐震性が不足しているなどの危険な状態である場合や、大規模災害に被災した場合には、決議を早急に行う必要があるため、5分の4の賛成を集める負担はより重くなってくる。
そこで、①耐震性が不足している、②火災に対する安全性が不足している、③外壁等の剥落により周辺に危害を生ずる恐れ、④排水管の腐食等についてその改修が著しく困難で、衛生上有害となる恐れ、⑤バリアフリー基準に適合していない──といった客観的に見ても問題があるような場合には、4分の3の賛成で決議できるようにしている。さらに、大規模な災害(政令指定災害)で被災した場合には、より決議をしやすくするため3分の2にまで緩和する。
建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、取り壊しなどの新たな決議ができることにともなって、組合の設立や権利変換計画などの必要な手続きを整備している。
容積率をアップするために、旧マンション敷地に隣接する戸建住宅などの敷地を取り込んで建替えるケースがある。今回の改正では、隣接地や底地の所有権などを建替え後のマンションの区分所有権に変換することを可能にしている。イメージとしては、再開発的な手法を隣接地の取得の際にも導入する格好だ。
こうした建替えは、隣接する土地を取り込むことで規模を拡大し、新たに売却できる住戸の戸数を増やして建替え事業の採算性を確保する手法となっている。この場合は隣接地の所有者や借地権者の同意を得る必要があるため、これらの権利者の同意が得られないと、建替え事業自体が成立しなくなってしまう。同意が得られない要因として、多くの権利者が同じ場所に住み続けたいと考えている点が挙げられる。現行では新たなマンションの区分所有権などを取得することはできないため、同じ場所に住み続けたいと考えている権利者にとっては、補償金をもらったとしても新たなマンションに住むことができるとは限らないからだ。そこで、権利変換を選択することを可能にして、建替え後の区分所有権・敷地利用権を取得できるようにしている。
耐震性不足による建替えなどを実施する場合、地方自治体(特定行政庁)の許可で高さ制限を緩和できるようにする。現行でも容積率が緩和されるが、斜線制限などの高さ制限で建替えが困難になるケースがあるための措置だ。
地方自治体の関与強める
今回の改正では、マンション管理が不十分な物件に対する地方自治体の関与も強めていく。外壁が剥離するなど危険な状態にあるマンションに対して、地方自治体が必要な指導や助言を行うことができる。また、著しく危険な場合、マンションの建替えなどを実施するよう勧告、正当な理由がない場合はその旨を公表して実効性を確保する。地方自治体は、マンション管理に関して報告徴収、助言指導・勧告、斡旋などをできるようにする。
地方自治体と民間団体との連携強化として、区分所有者の意向把握、合意形成の支援などの取り組みを行う民間団体を「マンション管理適正化支援法人」として登録する制度を創設する。
今回の改正でも、さまざまな課題は残る。まず今回の改正は、マンション建替え事業の採算性とは無関係であるという点だ。そのため、事業性がない立地の高経年マンションでは、建替えや再生を進めるために、高齢となった区分所有者に対しての資金面での対策などが別途必要になる。
また、国の「管理計画認定制度」の拡充である点にも注意が必要だ。マンション管理計画の登録制度については、22年4月から(一社)マンション管理業協会による「マンション管理適正評価制度」がある。この評価制度は、国の制度を補完するものと位置付けられており、審査項目も国の制度で実施される16項目を含む30項目におよぶ。そのため、国の管理計画認定制度と協会の適正評価制度は、同時に申請することが可能だ。なお、有効期間は国の管理認定制度が5年間であるのに対して、協会の適正評価制度は1年間と短い。
今回の改正で、国は管理計画認定の取得割合を改正法施行後の5年間で20%に、マンション再生などの件数を1,000件に拡大することを目標としている。
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

月刊まちづくりに記事を書きませんか?
福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。
企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。
ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)