鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗
6月13日のイスラエルによるイラン攻撃と、それに対するイランの反撃から始まった戦争状態がトランプ大統領の仲介で極めて短期間で停戦合意に至った「12日間戦争」の背景と今後の展望を、アメリカ、ロシアなどの対応を含めて改めて検証する。
1.イスラエル軍によるイランへのミサイル攻撃開始
~その動機・目的は何か~
イスラエル軍は6月13日早朝、イランが核兵器を開発しようとしているとして核施設などへのミサイル攻撃や200機の戦闘機でのイラン全土への空爆を開始した。イスラエルはイランへの先制攻撃を理由に非常事態を宣言した。
イスラエルの先制攻撃によってイラン革命防衛隊(IRGC)のホセイン・サラミ司令官を含む軍幹部、そして核科学者のモハンマド・メフディ・テランチやフェレイドゥーン・アッバシも殺されたと伝えられている。
また、イラン国営メディアは13日、イスラエルに向けて数百発の弾道ミサイルを発射する反撃作戦が始まったと伝えている。イランの革命防衛隊は、イスラエル領内の軍事基地や施設など数十の標的に攻撃を加えたと主張した。
イランの最高指導者ハメネイ師はビデオ演説で「シオニスト政権(イスラエル)は大きな過ちを犯した。その結果は悲惨なものになる」と警告した。
ロイター通信などによると、イスラエル全土で空襲警報が鳴っており、エルサレムとテルアビブで爆発音が聞こえたとのこと。イスラエルのメディアは、同国中部で7人が負傷した、と伝えた。
ロイター通信などは15日、複数の米政府高官の話として、イスラエルがイランの最高指導者ハメネイ師を殺害しようとしたが、トランプ米大統領がそれを認めなかったと報じた。米当局者は「イランが米国人を殺害するまでは、政治指導者の殺害は議論しない」と語っている。
イスラエルはイランの核施設などへの攻撃と併せ、ハメネイ師暗殺だけでなく、イランの体制転換を目指していた可能性がある。
こうした報道について、イスラエルのネタニヤフ首相は15日、米FOXニュースのインタビューで「ありもしなかった会話に関する多くの虚偽報道がある」と否定した。ただ、「我々は必要なことをやるだけだ」と述べ、イランの体制転換は「結果としてあり得る」とも述べている。
ロシアのプーチン大統領も13日、イラン大統領およびイスラエル首相と個別に電話会談を行いました。イラン大統領との電話では、ロシアはイスラエルの対イラン行動を非難すると伝えた。イスラエルに対しては、イランの核開発計画をめぐる問題は外交によってのみ解決できると伝えている。
ロシア大統領府(クレムリン)の声明によると、プーチン大統領はイランのペゼシュキアン大統領に対し、ロシアは「国連憲章に違反したイスラエルの行動を非難する」と述べ、犠牲者に対し哀悼の意を表した。
またイスラエルのネタニヤフ首相との会談では「協議プロセスに復帰し、イランの核開発計画に関するすべての問題を厳密に政治的・外交的手段を通じて解決することの重要性を強調した」という。
またロシアのプーチン大統領が14日にトランプ米大統領と電話協議を行い、イスラエルによるイラン攻撃をめぐり意見交換した、とウシャコフ大統領補佐官が明らかにした。 両者の電話協議は今月4日以来だ。今回の攻撃をめぐる両者の立場は異なるが、プーチン氏はトランプ氏の79歳の誕生日を祝い、良好な関係の維持に努めた。
ウシャコフ氏によると協議時間は50分。プーチン氏は「中東全体に予測できない結果をもたらす紛争激化の可能性があるとして、深刻な懸念を表明」した。前日にイスラエルのネタニヤフ首相とイランのペゼシュキアン大統領と電話協議したことを伝え、仲介役に意欲を示した。トランプ氏は、米国がイランとの協議を継続する用意があると伝えたという。
一方、両首脳は「二国間ならびに国際的な問題の解決策を議論できる、個人的な関係を築いている」と満足感を示した。プーチン氏は同日のトランプ氏の誕生日のほか、陸軍創設250年や星条旗制定記念日を祝福。両首脳は、第2次世界大戦中の「戦友の絆」にも言及したと伝えられている(『朝日新聞』、6月15日)。
2.トランプ大統領の仲介で
イスラエルとイランが停戦合意か?
ニューヨーク・タイムズ(電子版)は6月16日に、イランの核施設を5月に空爆する計画をイスラエルが提案したところ、トランプ米大統領がイランとの核協議を優先し、容認しなかったと報じた。核問題解決に向けて外交を重視したかたちだが、交渉次第では軍事行動の選択肢も残されているという。
またトランプ政権は、イスラエルのイランへの攻撃について当初、「イスラエルの単独行動だ」(ルビオ国務長官)との立場を示していた。しかし、その方針を転換し、22日には米軍がイランの核施設3カ所をB2ステルス機のバンカーバスターなどによって空爆し、「イランの主要な核施設は完全に破壊された」(トランプ大統領)と発表した。
それに対して、イランはその報復として23日にカタールの米軍基地をミサイル攻撃した。イランの外交や国防を管轄する最高安全保障委員会は23日、声明を出し、報復攻撃に使ったミサイルの数は、アメリカがイラン国内の核施設への攻撃に使った爆弾の数(19発)と同じだと主張した。また、今回攻撃したアメリカ軍の基地は、都市の施設や住宅地から離れた場所にあると説明したうえで、カタールの人々を標的にしたものではないとしている。このミサイル攻撃は事前にアメリカやカタールに通告していたため、死傷者はなかったようだ。
これに対し、トランプ大統領は自身のSNSで、「おかげで命が失われることはなく、けが人もなかった」と述べ、イランに「感謝」を表明した。さらに「イランは、地域における平和と調和へと進むことができるかもしれない」と記し、「イスラエルにも同じように行動するよう、熱心に働きかけていく」と強調した。
同じ23日午後、トランプ大統領は交戦が続いていたイスラエルとイランの間で、「完全かつ全面的な停戦が完全に合意された」とSNSで突然公表した。このSNSへの投稿でトランプ大統領は、まずイランが攻撃を停止し、その後、イスラエルも停止する、停戦が実現すれば「12日(間の)戦争の正式な終結」を迎えることになると説明した。トランプ大統領は「この戦争は何年も続き、中東全体を滅ぼす可能性もあったが、そうはならなかった。これからも決してならない」とも主張した。
ロイター通信は24日、米国の停戦提案をめぐる交渉に関与した当局者の話として、カタールのムハンマド首相が米国の提案に対するイラン側の合意を確保した、と伝えている。トランプ大統領はイランが米軍基地への攻撃を実施した後、カタールのタミム首長に電話し、イスラエルが停戦に合意したと伝えたうえで、イラン側を説得するよう要請していたという。
イスラエルとイランもトランプ大統領の発表後、順に停戦合意の事実を確認した。しかし、イスラエルはイランから停戦違反のミサイル攻撃があったとしてイランへの攻撃を行った。一方、イランは停戦発効後にはミサイルを発射していないと否定した。
これに対してトランプ大統領は、自身のソーシャルメディアプラットホーム「トゥルース・ソーシャル」に「イスラエルよ、爆弾を投下するな。爆弾投下は重大な(停戦合意)違反だ。今すぐすべての操縦士を帰国させろ」と投稿した。また、記者らに対し、イスラエル、イランともに停戦協定に違反して相手に攻撃を加えたと語った。
そして、トランプ大統領が提起していた正式な停戦開始時刻までイスラエル・イラン双方とも攻撃を控え、その後も現在まで停戦合意は何とか守られているようだ。
(つづく)
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