芸術のパトロン、ベネッセが“政商”に変質する時~個人情報流出事件と「プロ経営者」原田泳幸氏の改革失敗が転機(前)
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2020年度の大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入をめぐり、やり玉に挙がっているのが、実施団体の1つで「進研ゼミ」の通信教育で知られるベネッセだ。子会社は国語・数学の記述式問題の採点も委託されている。政界・官界との癒着があぶり出された。芸術家のパトロンだったベネッセは、いつから“政商”に変質したのか。個人情報流出事件と「プロ経営者」原田泳幸氏による改革の失敗が転機になった。
元文科相下村氏が後ろ盾、元文部事務次官佐藤氏が天下り
「身の丈に合わせて頑張って」―――。萩生田光一文科相の失言が引き金になり、来年度から始まる予定の大学入学共通テストへの英語民間試験導入が延期になった。それとともに、ベネッセと政治家や文科省の癒着問題が噴出してきた。
英語民間試験の最有力候補が、通信講座を運営するベネッセコーポレーション(本社・岡山市)が提供する「GTEC」だ。同社は、持株会社ベネッセホールディングス傘下の中核事業会社である。
週刊誌が、この問題を一斉に報じた。『週刊文春』(11月14日号)は「安倍“お友だち”と英語試験業者の蜜月」、『週刊新潮』(同)は「英語民間試験ごり推しの裏に『ベネッセ』の教育利権・・・高校も大学も逆らえない」のタイトルで、ベネッセを槍玉に挙げた。ベネッセは下村博文元文科相と蜜月関係にあるという。
学習塾の経営者から政治家に転じた下村氏は、文教族として地歩を固める一方、塾業界や通信教育業界、私立学校関係者などを中心とした全国網の後援会「博友会」をもつことで知られる。下村氏は民間教育業界が押し立てた代表者なのだそうだ。
衆院予算委員会で明らかになったのは、ベネッセと共同で検定試験「GTEC」を行っている(一財)「進学基準研究機構」の役員構成。理事長に旧文部省元次官の佐藤禎一氏、参与に文科省出身で、元岡山大学事務局長・阿部健氏が就いていた。国会で取り上げられる事態になり、2人とも慌てて辞職したという。
21年1月に始まる大学共通テストの記述式(国語・数学)の採点業務でもベネッセグループ傘下で採点を手がける学力評価研究機構(東京・新宿)が61億6,000万円で落札している。
11月20日の衆院予算委員会で、ベネッセコーポによる共通テストの営業利用を、野党議員が追及した。首都圏の高校関係者向けの会合で、配布した資料に、自社の進研摸試が「入試改革に対応した出題」であることをうたっていた。
一連の報道は“政商”そのものの姿だ。ベネッセはなぜ、官に擦り寄るようになったのか。14年の個人情報流出事件と「プロ経営者」原田泳幸氏の改革失敗が転機になった。
創業者・福武哲彦氏の後を息子の總一郎氏が引き継ぐ
ベネッセの前身は1955年に故・福武哲彦氏が岡山市で創業した「福武書店」。社員6人で生徒手帳などを製作した。地元向けの模擬試験も始め、69年、後に「進研ゼミ」となる高校生向けの通信講座を開始した。
福武總一郎氏は1945年、哲彦氏の長男に生まれた。早稲田大学理工学部卒。日製産業、日本生産性本部勤務を経て73年福武書店に入社。父の急死で86年社長に就任した。
總一郎氏は小中高校向け通信添削講座「進研ゼミ」に経営の軸足を移し大成功。1995年に社名をベネッセコーポレーションに変更、大証2部(2000年に東証一部)に上場した。ベネッセはラテン語の「よく生きる」という意味に由来する。
「教育のベネッセ」として、幼児教育から小・中・高校の受験教育、社会人の英語取得まで手がけ、日本における一大教育コンツェルンを築き上げた。總一郎氏はベネッセの“中興の祖”である。
「現代アートの聖地」をつくった芸術家のパトロン
總一郎氏は実業家のほかに、芸術家のパトロンというもう1つの貌をもつ。2004年個人資産を寄贈して福武財団を設立。瀬戸内に浮ぶ直島に数々の美術館をつくり、直島は「現代アートの聖地」と国内外から高く評価された。
文化・芸術活動を行う福武財団は、養子の英明氏に引き継がせることにして、さまざまな手を打ってきた。總一郎氏は09年、居住地をニュージーランドに移した。日本の相続税・贈与税の最高税率は50%で、遺産の半分は税金にもっていかれるが、ニュージーランドは無税だからだ。そして、資産管理会社のイー・エフ・ユーインベストメントは、首都オークランドに本社を置いた。
ベネッセHDの2019年3月期末の筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行で13.56%を保有する。有価証券報告書の脚注によると、福武英明氏が代表を務める福武一族の資産管理会社イー・エフ・ユーインベストメントが信託財産として拠出したもの。イー・エフ・ユー・インベストメントは8.15%、福武財団は6.65%の株式をもつ。親族の持ち株を合わせると32.09%を保有する圧倒的な大株主だ。
自分が亡くなっても、相続税を払わなくて済むように海外に移住し、ベネッセの配当金で文化・芸術活動を続けていける仕組みをつくった。福武英明氏は、持株会社ベネッセHDの社外取締役である。
(つづく)
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