【書評】『ネット右翼VS.反差別カウンター −愛国とは日本の負の歴史を背負うことだ!』山口祐二郎(モナド新書)
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東京・新大久保や川崎などでヘイトスピーチに対するカウンター活動を展開してきた著者が、自身の壮絶な体験を明かすとともに、ヘイトが生まれた背景や右翼団体の現状、民族運動の在り方などについて語っている。巻末には、ジャーナリスト安田浩一氏および版元代表で部落解放運動家の小林健治氏との対談を収める。
著者の山口氏は現在、右翼・左翼の混合集団「憂国我道会」の会長。米軍横田基地や米国大使館前で日本の自主・独立を求めるデモで知己を得て、6月に「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の高田誠(通称・桜井誠)会長(当時)らを相手に起こした民事裁判でその勇姿を見たことがあった。
在特会が新大久保で頻繁にヘイトデモを行うようになったのは、2012年ごろ。「お散歩」と称してコリアンタウンを練り歩き、韓国人店員に暴言を吐き、唾を飛ばし、看板を壊す。
「ウジ虫、ゴキブリ、朝鮮人」
「朝鮮ババア! ブスブスブス!」
「死ね死ね死ね!朝鮮人!」(p.67)怒りに震え、涙を流す若い女性もいたという。
民族運動に関わってきた山口氏だが、何とかしたい気持ちが抑えられず、翌年2月に結成された「レイシストをしばき隊」に参加。思想や政治的立場を超え、差別を許さないという1点で集まった集団である。
ヘイトスピーチが生まれた背景には、ネトウヨの台頭があるという。そこに、既存の右翼が武力装置としてそこに荷担したと山口氏は分析する。「スピーチ」と言っても、実態は差別的憎悪扇動であり、ヘイトクライムの一形態にすぎない。
巻末の対談で安田氏が述べるように、そもそも「日本の戦後右翼は体制の補完者であり、本当の意味での反体制としてあったことは一度もない」(p.251)のかもしれない。同書は児玉誉士夫・岸信介・笹川良一の巣鴨釈放トリオが暴力団を従米体制維持に使ってきた経緯も紹介する。
左翼は生来の警察不信から、ヘイト集団から暴行を受けても届けを出さない。「憂国我道会」という名称を採用したのは警察を意識した面もある。しかし、普通の人がカウンター活動の現場を見たら、混乱するだろう。自ら被差別部落出身と称する作家・宮崎学氏さえ、「誰が、どういう意志で闘ってくれとるんか」(p.286)と感嘆したとのこと。
本来、右翼は「一君万民」の下、日本人はすべて平等と考えるはず。さらに山口氏は、「西洋列強の植民地主義に抑圧されているアジア各国の民族を尊重する一面があったのは、紛れもない事実だ」(p.94)と強調する。
「カウンターの人たちを見て、カタギでもここまでやるんだと勇気をもらった。弱き者を助ける任侠の世界は、ここにあると思ったんだ」(p.79)
反差別の武闘派集団「男組」の組長、高橋直輝氏の言葉だ。
山口らは2014年8月の終戦記念日、靖国参拝後に東京・飯田橋の居酒屋で在特会やその友好関係にある「純心同盟本部」らのメンバーと鉢合わせし、悲惨な集団暴行を受ける。カウンターたちは荒ぶる気持ちを抑え、一切手を出さなかった。これが高田会長の辞任や「純心同盟」の解散、2016年のヘイトスピーチ解消法の制定につながった。
山口氏の影響で、ヘイトから足を洗って友人となった青年の話も紹介されている。高橋氏はその後、沖縄に渡り、米軍基地反対運動に身を置く。対米従属と沖縄差別が集約されているからだ。7カ月近い長期拘留の果て、ぼろぼろになって帰らぬ人となる。
ともに獄中生活を繰った沖縄平和運動センターの山城博治議長の言葉が泣かせる。
「権力に目を付けられ、つぶされた。彼が愛した弱き者、差別される者に未来があるよう、私たちが頑張ることが遺志に応えることになる」(p.207)
同書を通して心打たれたのは、カウンター活動家たちの共感力である。当事者でないのに、目の前に起きている理不尽に耐えきれないという感情が行動に導いた。読み終わって、同志たちの関係をうらやましく思えた。
私には彼らのように面と向かって闘う勇気がない。しかし、大切なものを守ることでつながる美しい心があることを教えてくれた貴重な一冊である。皆がこの心に気付けば、世界はどんなに平和になるだろうか。
<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)
1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。ブログ『高橋清隆の文書館』。関連キーワード
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